2021.10.04 金融庁 2021年保険モニタリングレポート公表、財務・リスク管理等への課題で方針示す

金融庁は9月10日、「2021年保険モニタリングレポート」(A4判62ページ)を公表した。金融庁全体の方針を示した金融行政方針を補足する資料として位置付けられるもので、保険会社・少額短期保険業者を取り巻く諸課題のうち、特に金融庁として課題と認識している主な事項について、昨事務年度のモニタリングによって把握した実態や課題などをとりまとめて整理し、それを踏まえた本事務年度の保険会社・少額短期保険業者へのモニタリングの方針を示している。今後、こうした取り組みを継続的に実施することで、保険行政の透明性を高めつつ、PDCAサイクルをより強く意識した保険行政を行っていくとしている。

 金融庁は、保険会社を取り巻く状況について、「従前より人口減少、自動運転技術をはじめとする技術革新等により国内保険市場が縮小する可能性や、低金利環境の継続による収益環境の変化に直面している。また、消費者のライフスタイル・嗜好の変化、デジタル化の進展等によって顧客ニーズも変化している。さらには、内外経済・市場の変動に加え、自然災害の多発・激甚化等の気候変動リスクの増大や、新型コロナウイルス感染症の拡大により、顧客・保険会社ともにその取り巻くリスクが変化してきている」としており、こうした環境変化による新たな課題として「保険会社各社においては、このような環境変化に応じてビジネスモデルを不断に見直すとともに顧客ニーズの変化に即した商品開発を行っていくことが重要」「こうした中で、収益源の多様化を目指して海外事業展開や海外クレジット資産への投資拡大を進める動きが見られるが、これにより、世界経済や海外市場の動向に影響を受ける程度が高まりつつあり、グループガバナンスやリスク管理の高度化が課題となっている」「また、デジタル化の推進による経営の効率化や顧客へのさらなる付加価値の提供を目指す動きも見られるが、その反面、新たなリスクへの対応や人材育成も課題となっている」と総括。
 その他にも個別の課題として、「営業職員チャネルにおける多額の金銭詐取事案の発覚や、金融機関代理店チャネルにおける外貨建保険の苦情発生、いわゆる乗換契約に伴う不適切募集問題の発生等をはじめとした顧客保護の問題も引き続き課題」で、生命保険会社は「上記の課題を未然に防ぐよう法令遵守を徹底するとともに、それにとどまらずに顧客本位の観点から保険営業を高度化していくことが重要」とし、また、損害保険会社については「代理店が販売チャネルの大宗を占めていることを踏まえると、顧客本位の業務運営の実現には代理店との建設的な協力関係の構築が引き続き重要」とし、さらに、少額短期保険業者については、「業者数は大幅に増加しており、その規模や特性、取扱商品が多様化するとともに、市場規模も拡大傾向となる等、存在感を増している反面、必要となる態勢等に不備が見られる業者や、保険金上限額の緩和に係る経過措置の終了が2023年3月末に迫る中で、その対応に遅れが見られる業者も一部には見受けられる」と指摘している。
 金融庁では、昨事務年度は、特に海外事業展開を進める大手保険グループに対し、グループベースでの経営管理態勢やリスク管理態勢の高度化を促すことを目的として、「IAIGs等向けモニタリングレポート」を公表し、それに沿った対話を実施している。

 本事務年度の方針では、まず、「財務・リスク管理」の課題で、①「グループガバナンスの高度化」として、▽これまで、グループ構造、事業計画や業績の管理、及びグループ内部監査等のさまざまな体制整備の状況についてモニタリングを実施してきた。これらは有効なグループガバナンス態勢の各要素を構成するものであり、適切なグループガバナンス態勢のためには、各要素が有機的に結びつき、全体として有効に機能することが重要▽上記の観点から、過去のモニタリングを通じ、各保険グループと共有した課題のフォローアップを行うとともに、全体として有効なグループガバナンス態勢が整備・運用されているかどうかについて、改正監督指針に基づき検証していく―としている。
 また、②「自然災害の多発・激甚化への対応」として、▽自然災害リスク管理に関するモニタリング(今後の大規模自然災害発生に備え、損害保険会社各社において、経営レベルでの論議に基づきどのようなリスク管理を行っているか引き続き注視)▽保険金支払いに関する損保業界横断の取組み(自然災害発生時の迅速かつ適正な保険金支払いに向けた態勢整備について、継続的に損害保険会社各社と対話・論議を行うことで各社の取組みを促すとともに、日本損害保険協会における業界横断でのインフラ整備について引き続き協働を行う)▽火災保険水災料率に関する有識者懇談会(第1回会合における意見・論議を踏まえ、保険の相互扶助性と保険料負担の公平性とのバランスのあり方、損害保険会社に求められる取組みなどの論点についてより論議の深耕を図り、意見の取りまとめ・公表を行う)―としている。
 さらに、③「財務の健全性の確保」として、▽引き続き、主要保険会社の財務状況をフォローアップし、早期警戒制度に基づき、保険会社に早め早めの経営改善を促す▽Holistic Framework に基づきモニタリングを継続し、システミックリスクに関連性が高い要素に対するリスク管理態勢の高度化を促すほか、保険セクター全体のシステミックリスクの積み上がりの状況について、継続的にモニタリング▽ESRの導入に関しては、22年に制度の基本的な内容を暫定的に決定・公表することを目指し、着実な検討を進める(国内フィールドテストの継続実施、標準モデルの仕様、保険負債等の妥当性検証の基本的な考え方の提示)▽外貨建保険を標準責任準備金の対象にする制度改正を行ったこと踏まえ、保険計理人の実務基準等の改定に向けて、公益社団法人日本アクチュアリー会と協議を 進める―としている。
 次に、「顧客本位の業務運営」の課題では、①「営業職員管理態勢の高度化」として、【特に顧客被害を生じさせた会社への対応】で、▽再発防止策の実施状況やその後の顧客対応状況等をフォローアップしていく、【生命保険業界全体への対応 】で、▽各社の営業職員管理態勢の高度化に向けた取組状況について、顧客本位の業務運営の徹底を促す観点から、引き続き、モニタリング(必要に応じた立入検査を含む)を実施し、営業職員管理態勢の見直し・改善及びさらなる高度化を促していく―としている。
 また、②「外貨建保険の募集管理等の高度化」として、▽昨事務年度に把握した論点を中心に、顧客本位の保険募集等のさらなる高度化に向け、保険会社・金融機関代理店との対話・アンケート等を引き続き実施▽タイムラグマージンに関する監督指針改正を踏まえた対応についてもフォローアップを実施▽顧客が各金融商品を比較するための情報提供として、外貨建保険にも投信と同様の比較可能な共通KPIの導入を検討―としている。
 さらに、③「損害保険代理店との円滑な連携」として、▽昨事務年度の対話等で認識された課題に対する損保各社の取組状況について、引き続きフォローアップを行うとともに、課題解決に向けた取組みを後押しする観点から、損害保険業界や日本損害保険代理業協会との対話を継続的に実施していく―としている。
 その他、少額短期保険業者について、適切な態勢を整備した業務運営と経過措置適用業者への対応方針が示されている。