2021.07.08 損保協会 舩曵協会長就任会見、気候変動対策など所信表明、社会課題解決に業界一体で取り組み
損保協会では、6月30日に開催した定時社員総会で役員改選を行い、三井住友海上社長の舩曵真一郎氏が協会長に就任した。舩曵協会長は7月1日の就任記者会見で、第9次中期基本計画の初年度となる本年度は、気候変動に関連する取り組み、非対面・非接触・ペーパーレスの推進、事業会社のリスクの備えへの取り組みの一段の強化、高校生を中心とした損害保険リテラシー向上などに重点的に取り組む方針を示すとともに、「損保業界は気候変動や社会のデジタル化などのさまざまな課題に直面しているが、それらの課題解決を実現できるよう真摯に取り組んでいきたい」と所信を表明した。
記者会見で舩曵協会長は、前任の広瀬前会長からしっかりと役割を受け止め、協会長として1年間の任期の間、安心・安全な社会の形成に向けた取り組みを行うとあいさつ。新型コロナウイルス感染症で影響を受けた方々に心からお見舞いを申し上げるとし、「医療従事者をはじめ、社会機能の維持のために懸命に働く方々に対し、損保業界を代表して深く感謝を申し上げる」と述べた。
近年の環境認識については、まず、2月に発生した福島県沖の地震に触れ、「東日本大震災から10年の節目の年に発生したこの地震は、災害リスクが常にある事実をあらためて想起させた」と述べ、「地震の他にも、2018年と19年度は損保業界で1兆円を超える保険金を支払う災害が発生した」と振り返った。
平成30年台風21号などのような風水害の激甚化・頻発化は、大気中の温室効果ガス濃度の上昇による地球温暖化によるものとされているとした上で、「二酸化炭素などの温室効果ガスを削減しながら、地球温暖化のこれ以上の進行を食い止めることは、保険業界のみならず、全世界の課題となっており、日本政府も2050年までにカーボンニュートラルの達成を宣言するなどの取り組みを行っている。このような顕在化する課題解決に貢献することは損保業界の果たす役割だ」と述べた。
損保協会が気候変動に関連して行う具体的な取り組みとして、①大規模水災時の共同取り組みのスキーム②特定修理事業者への対応強化③方針の策定と会員会社への支援―を挙げ、①では、人工衛星画像を活用して水災時の浸水の深さのデータを会員各社に提供し、大規模水災時の保険金支払いに向けた損害査定の共同取り組みを強化推進するとともに、一段と精緻な損害査定を行えるようにすること、加えてこのデータを分析し将来的には、水災損害査定のさらなる効率化につながる可能性があることに言及、②では、悪質な特定修理業者に関する顧客への注意喚起を一段と強化しつつ、損保各社共通の不正請求事案のデータベースの拡充や警察と連携した損保防犯対策などの強化を行い、さらにはAIを使って特定修理業者が関与した案件を検知するツールの開発の検討を進めるとした。③では、温室効果ガスの削減に向けて損保業界全体で議論し、2050年カーボンニュートラルに向けた方針を策定し、損保協会の立ち位置を明確にするとともに、会員各社の大きな方向性を一定にそろえ、顧客に対しては気候変動に対する備えについて、分かりやすくまとめた電子パンフレットを作成する考えを示した。
続いて、コロナ禍であらためて課題となった業務のデジタル化については、会員各社で非対面の業務・ペーパーレス化を進めており、同協会では業界共同で取り組んだ方が効率的なデジタル化の取り組みについて検討を進めているとした。具体的には、本年秋に保険料控除証明書の電子化と、その共同発行に関するマイナポータルとの連携を予定しており、年末調整手続きや所得税の確定申告手続きなどに必要な書類や各種申告書の自動入力が実現することを報告した。
また、事業会社に対する自然災害による休業リスクやサイバーリスクの啓発取り組みと事業者向け保険の普及促進などに力を入れることを重点課題として挙げた。
最後に舩曵協会長は「現代は多くの社会課題が存在している。これらの課題はリスクでもあるが、新しい視点を持つきっかけとなるチャンスでもある。課題の解決に向け会員各社が一体となって取り組み、国民の安心・安全の実現につながるように尽力していく」と抱負を語った。
その後の記者団とのやりとりでは、6月に金融庁に設置された「火災保険水災料率に関する有識者懇談会」について、その結論を踏まえて損保料率機構で具体的な検討をすると理解しているとし、同協会としては国民に対する情報提供を実施するとした。
損害保険トータルプランナーの認定者数の拡大については、全世界において価値基準が変わっていく時代において、事業としての信頼性を得ていくためには、損保協会、会員各社、代理店が将来に向けて仕事の価値観を新たにしていかなければいけない局面にあるとし、「この制度は業界内においては目指すべき品質を示すものとして制度自体の認知は一定進んでいるが、制度自体の認知よりも、制度を使って販売従事者の活動の品質を高めていくことが重要で、制度はその達成手段の一つである」との認識を示した。
新型コロナウイルスが損保業界に与えた影響に関しては、業務の一層の効率化とともに、顧客にペーパーレス・キャッシュレスなどの新たな利便性を提供しているとし、損保業界が新たなビジネスモデルに移行できるチャンスにもなると答えた。
金融リテラシーの向上の課題については、教育現場で保険などを取り上げることで、将来的に若者が起業などをする際に保険などの活用を検討し、リスク分散の一助となることで将来的な日本経済の活性化を後押ししたいと語った。
サイバー保険に関しては、同協会が中小企業を対象に実施したサイバーリスクに関する意識調査では認知と普及が進んでいないことが示されたと説明し、「再度アンケート調査などを行い、課題とニーズをあらためて認識することで、中小企業がサイバーリスクを理解する啓発資料の作成を検討していく」と述べた。
自動車保険の今後についての質問に対しては、損保業界としては社会が自動運転技術を円滑に受け入れられるような保険制度を作るため、課題の認識など一層の努力が求められているとの見解を示した。
気候変動に関する方針の具体的な内容については、「保険の仕組みにより脱炭素社会への移行を円滑に進める」「保険会社そのものの炭素排出量の削減」の二つの観点に関して、損保業界全体の共通の価値観と認識を示すとし、「損保会社だけではなく代理店や顧客も含め、脱炭素に関する取り組みを理解し、認識を深める情報の提供に努めていく」とした。
他業界との連携に関する質問では、隣接する金融業界と共通の意識・認識を持ち取り組むことは多いとした。