2021.06.22 中小事業主労災等共済事業法成立 認可特定保険業から厚労省所管の共済制度へ
自由民主党、立憲民主党、公明党、日本共産党、日本維新の会、国民民主党の共同提案で国会に提出されていた法案「中小事業主が行う事業に従事する者等の労働災害等に係る共済事業に関する法律」(略称:中小事業主労災等共済事業法)が6月11日参議院本会議で全会一致で可決、成立し、6月18日公布された。労働者災害補償保険(政府労災)では十分にカバーされない中小事業主、一人親方、フリーランスの個人事業主等の労働災害の補償については、従来、厚生労働省認可の事業者が保険業法上の認可特定保険業として期限等の制約のある中で共済事業を行ってきたが、今後は本法律に基づき厚労省が監督する共済制度の枠組みの中で事業を継続していくことになる。施行は公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日。
中小事業主労災等共済事業法は、中小事業主が行う事業の従事者の労働災害等の防止を図り、労働災害等その他の災害について共済団体による共済制度を確立するための法律。それによると、労働災害等防止事業を行う一般社団法人または一般財団法人は行政庁の認可を受けて共済事業を行うことができることとしており、認可を受けた一般社団法人または一般財団法人が行うことができる共済事業は、中小事業主が行う事業に従事する者等の労働災害等に係る共済事業(必須)で、そのほかこれらの者の労働災害以外の災害を対象とすることができることとしている。
認可審査の基準としては、認可の申請者に関して一定の欠格事由に該当しないこと、共済事業を的確に遂行するに足りる財産的基礎および人的構成を有すること、労働災害等防止事業等を行うこと、社員等の関係者や営利事業を営む者等に対して特別な利益を与えないこと、役員報酬等について支給基準を定め公表していることなどが挙げられている。
行政庁は、共済事業の健全かつ適切な運営を確保し、共済契約者等の保護を図るため必要があると認めるときは共済団体に対し業務または財産の状況に関し報告または資料の提出を求め、立ち入り検査を行うことができることとし、業務停止、認可取り消し等の監督上必要な措置をとることができることとしている。
また、共済団体の社員等または共済代理店等のほか何人も共済募集を行ってはならないこととしているが、銀行等は共済代理店の届け出を行って共済募集を行うことができることとしている。
本法律の中小事業主の定義は、常時使用する労働者の数が300人以下である事業主、資本金の額または出資の総額が3億円以下である事業主、労働者を使用しないで事業を行うことを常態とする者で、フリーランスも含まれる。
「労働災害等以外の災害にかかる共済事業を行うことができる」とあるが、この「災害」とは、負傷・疾病、障害または死亡のことで人的損害のみに限定されている。
中小企業の社長や一人親方などは、従業員と同様の作業に従事することから、業務の際に従業員と同様に負傷することもあり、負傷等の災害に対する補償のニーズが従来からあった。こうした災害を補償する法的な制度として政府労災の特別加入制度があるが、業種により従業者数が50から300人以下に限られ、一人親方等の場合は加入できる事業が限定されるなど十分に利用されているとは言い難い状況にあるという。そのため、中小企業の社長や一人親方の災害補償の多様なニーズに応えるものとして、これまで民間団体の共済事業が行われてきた。そのような共済事業は、かつては個別の法律による規制を受けずに行うことができたが、2005年の保険業法の改正によって認可特定保険業として位置付けられるようになり、以後、「当分の間の暫定措置」として共済事業を行うことができるという不安定な立場に置かれていた。また、05年当時の事業と同じ範囲でしか事業を行うことができず、金融機関の窓口販売などが制限されるなどニーズに応えた商品提供を行いにくい状況にあるという。
今回の立法化は、このような課題を解消するため恒久的な制度として位置付け、中小事業主等が安定的な制度の下で補償を受けられるようにするものと説明されている。
厚生労働省が現在所管している認可特定保険業の事業者は12あり、このうち労働災害に関わる共済事業を行っている事業者は、一般財団法人あんしん財団(東京都新宿区)、公益財団法人日本中小企業福祉事業財団(通称:日本フルハップ:大阪市中央区)、公益財団法人建設業福祉共済団(東京都港区)、一般社団法人全国労働保険事務組合連合会(東京都千代田区)、公益財団法人労災保険情報センター(東京都文京区)の5事業者がある。この中であんしん財団と日本フルハップが個人事業主等の労働災害を補償する共済事業を実施している。