2021.05.20 三井住友海上 フィリピンでDXプロジェクト、MS1Brainの海外展開初事例に

 三井住友海上がフィリピンの大手銀行BPIと共同で進めていたDXプロジェクトが始動した。両社の合弁会社を通じてBPIの顧客データを分析し、同社のモバイルアプリからシームレスに保険加入できる仕組みを構築するもので、4月から傷害保険と医療保険のパイロット販売を始めた。フィリピン国内における銀行データを活用した保険のフルデジタル販売として、また、三井住友海上の代理店システムMS1Brainの海外展開として初の事例になり、プロジェクト成功への両社の期待は大きい。

 同プロジェクトは、三井住友海上がフィリピンでのパートナーであるBPIと共同で、新型コロナウイルスの影響で変容した社会に適合する「データ分析に裏打ちされた損害保険の非対面フルデジタル販売」というフィリピン初のビジネスモデルを実現するもの。両社の合弁会社である「BPI/MS Insurance Corporation」を通じて行われる。
 プロジェクトのポイントは大きく二つある。一つは、MS1Brainの一機能であるデータ分析を新ビジネスモデルの核としていることで、BPIの顧客約900万人分のデータを分析して、保険を必要とする顧客や最適なニーズ、販売すべきタイミングなどを導き出す。
 もう一つは販売チャネルDX(デジタルトランスフォーメーション)で、保険販売のためのウェブアプリを開発してBPI銀行アプリに連結(Built―in―Connect)。「API連携による顧客情報の自動引き込み」「オンラインバンキングによるリアルタイムでの保険料口座引き去り」「e証券の自動発行」といった機能を通じてシームレスな保険加入手続きを可能にした。データ分析で導き出した見込客ターゲットリストやパーソナライズドトークスクリプトを使ってウェブアプリの他、BPIの800以上の支店網やコールセンターといったオムニチャネルで展開することにより、顧客サービスの向上や効率的なマーケティング、成約率の向上、増収などの効果が見込める。
 同プロジェクトは2019年に、当時デジタル担当責任者だった舩曵真一郎社長が現地に赴いてBPI側と会談したことがきっかけとなり、2020年はじめにスタートした。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で4月にプロジェクトは中断したものの、8月に再開してから急ピッチで進めて今回のローンチを迎えた。
 コロナ禍の中で進められた今回のプロジェクトは、三井住友海上にとって多くの点で初の試みとなった。日本、フィリピン、マレーシア(ITベンダー)といった多国籍にまたがったシステム開発を行い、Teams、JIRAといったオンライン・プロジェクト開発ツールをフル活用した他、アジャイル・スクラムアプローチによる柔軟でスピーディーな開発手法を採用した。
 また、海外銀行が保有する大量の顧客データを活用したデータ分析や、SaaSソリューション(ベンダーのクラウド保険ソリューション)によるシステムデザイン、データ分析とBuilt―in―Connectを組み合わせたパートナー銀行内の新販売網構築までを含めた取り組み内容など、さまざまな挑戦がプロジェクトのローンチとして結実した。
 試行期間と位置付ける今年度は、主に傷害保険と医療保険の販売を予定しており、4~5月にかけて比較的小規模なパイロット販売から始め、6月からはオンラインでBPIにアクセスする顧客約50万人と、800以上の支店からデータ分析を通じてピックアップした数万人の顧客を合わせた約60万人に対してSMSやeメールを通じてアプローチしていく。売れ行きの検証やシステムの手直しなど行った上で、来年度以降に本格的な販売へと移行する。
 同社では、「本社主導で海外現地法人にデジタル施策を展開する初のプロジェクトであり、これを成功事例として他の国や地域、とりわけASEANで成長している国々をはじめアジア全体に広げていければと考えている」として、今後の進展に意欲を示している。