2020.10.02 ■金融庁 「顧客本位/原則」改訂案、「監督指針」改正案を公表、「原則」の充実[2020年9月25日]

 金融庁では9月25日、「顧客本位の業務運営に関する原則」の改訂案、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」と「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正案を公表した。この8月に公表された「金融審議会市場ワーキング・グループ報告書―顧客本位の業務運営の進展に向けて―」の提言を踏まえ、所要の改訂、改正を行う。市場WGの報告では、「顧客の属性や意向に反する取引や顧客の利益を犠牲にして業者の利益を追求する行為などの不適切な事例がいまだに見受けられる」「より良い取組を行う金融事業者が顧客から選択されていくメカニズムを実現していくためには、…「原則」の具体的内容の充実や新たな方策の導入により、プリンシプルベースによる対応の実効性をより一層高めていくことが望まれる 」「一方で、ベスト・プラクティスの対極にある不適切な事例に対しては、金融事業者が遵守すべき最低基準を定める法規制を適切に機能させるため、監督指針の改正により、ルールの適用についての明確化を図ることが必要」「プリンシプルベースの対応を基本としつつ、ルールベースの対応を適切に組み合わせることにより、顧客本位の業務運営の更なる進展を図るべき」とされていた。金融庁では、10月26日を期限に広く市中意見を求めている。
 ■「顧客本位の業務運営に関する原則」の改訂案  「顧客本位の業務運営に関する原則」は金融審議会市場ワーキング・グループの提言を受け2017年3月に策定された。その後、金融事業者の取り組み状況や「原則」を取り巻く環境の変化を踏まえ、19年10月から市場WGが再開され、顧客本位の業務運営のさらなる進展に向けた方策について検討が行われ、「原則」の具体的内容の充実や金融事業者の取り組みの「見える化」の促進などに関する議論があり、「原則」の改訂案について提言が行われた。
 今回の改訂案では、主に原則5【重要な情報の分かりやすい提供】、同6【顧客にふさわしいサービスの提供】、同7【従業員に対する適切な動機づけの枠組み等】の3カ所で改訂がある。
 原則5【重要な情報の分かりやすい提供】では、「注1」の「重要な情報には以下の内容が含まれるべきである」に、「顧客に対して販売・推奨等を行う金融商品の組成に携わる金融事業者が販売対象として想定する顧客属性」が加えられた。また「注4」と「注5」で文言の入替による構成の変更がある。
 原則6【顧客にふさわしいサービスの提供】では、新たな「注」が「注1」として挿入され、注番号が再編成された。新「注1」は「金融事業者は、金融商品・サービスの販売・推奨等に関し、以下の点に留意すべきである。▽顧客の意向を確認した上で、まず、顧客のライフプラン等を踏まえた目標資産額や安全資産と投資性資産の適切な割合を検討し、それに基づき、具体的な金融商品・サービスの提案を行うこと▽具体的な金融商品・サービスの提案は、自らが取り扱う金融商品・サービスについて、各業法の枠を超えて横断的に、類似商品・サービスや代替商品・サービスの内容(手数料を含む)と比較しながら行うこと▽金融商品・サービスの販売後において、顧客の意向に基づき、長期的な視点にも配慮した適切なフォローアップを行うこと」というもの。また、旧「注2」(新「注3」)で、従来「…販売対象として想定する顧客属性を特定するとともに、…」が「…販売対象として想定する顧客属性を特定・公表するとともに、…」となり「公表」が加えられた。
 また原則7【従業員に対する適切な動機づけの枠組み等】では、以下の新たな「注」が加えられた。「金融事業者は、各原則(これらに付されている注を含む)に関して実施する内容及び実施しない代わりに講じる代替策の内容について、これらに携わる従業員に周知するとともに、当該従業員の業務を支援・検証するための体制を整備すべきである」。
 なお、「原則」冒頭では、金融事業者が「原則」を採択し、これを実現するため策定・公表する「方針」について、それに「対応した形で取組状況を明確に示すことが求められる」とする文言も付け加えられた。  ■監督指針の改正案
 「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正案では、「Ⅱ保険監督上の評価項目Ⅱ―4業務の適切性Ⅱ―4―4顧客保護等Ⅱ―4―4―1顧客に対する説明責任、適合性原則Ⅱ―4―4―1―3特定保険契約における適合性原則」の2段落目「そのため」以下が次のように変更される。
 「保険会社及び保険募集人は、特定保険契約を販売・勧誘する前提として、特定保険契約の内容を適切に把握するための体制を確立する必要がある。また、顧客の属性等を的確に把握し得る顧客管理体制を確立することが重要である。さらに、特定保険契約の内容が顧客の属性等に適合することの合理的根拠があるかどうかの検討・評価を行うことが必要である。その上で、顧客に対してこのような合理的根拠を欠く販売・勧誘や、不適当な販売・勧誘が行われないように注意する必要がある。(改行)以上を踏まえ、例えば、以下のような点に留意して検証することとする。なお、販売・勧誘の方法としては、営業店に来訪した顧客への勧誘、電話による顧客への勧誘、インターネットを利用した勧誘等の様々な方法が考えられるところであるが、それぞれの特性に応じた適切な販売・勧誘の方法を検討する必要があることもあわせて留意する。(「注1」、「注2」略)」
 引き続き、上記の「留意点」として以下が記載された。
 「(1)特定保険契約の内容の適切な把握
 保険会社及び保険募集人が販売・勧誘する個別の特定保険契約について、そのリスク、リターン、コスト等の顧客が特定保険契約の締結を行う上で必要な情報を十分に分析・特定しているか。その上で、当該特定保険契約の特性等に応じ、研修の実施、顧客への説明書類の整備などを通じ、販売・勧誘に携わる保険募集人が当該情報を正確に理解し、適切に顧客に説明できる体制を整備しているか。
 (2)顧客の属性等の的確な把握、効果的活用及びその管理の徹底(①~⑤まで略)
 (3)特定保険契約の販売・勧誘に際しての合理的根拠についての検討・評価
 ①保険会社及び保険募集人は、顧客に対する特定保険契約の販売・勧誘に先立ち、その対象となる個別の特定保険契約や当該顧客との一連の取引の頻度・金額が、把握した顧客属性等に適うものであることの合理的根拠があるかについて検討・評価を行っているか。
 ②その検討・評価を確保する観点から、保険会社及び保険募集人は、特定保険契約の特性等に応じ、あらかじめ、どのような考慮要素や手続をもって行うかの方法を定めているか。  (4)不適当な販売・勧誘行為
 顧客に対する不適当な販売・勧誘行為として、例えば、以下のような特定保険契約の販売・勧誘が行われていないか。
 ①保険会社又は保険募集人が、元本の安全性を重視するとしている顧客に対して、元本の棄損リスクがある商品を販売・勧誘する行為
 ②①のような行為において、保険会社又は保険募集人が、当該特定保険契約に適合するような取引目的への変更を、当該顧客にその変更の意味や理由を正確に理解させることなく求める行為
 (5)略」
 ■金融審市場WG報告書の概要
 金融審議会市場ワーキング・グループでは8月5日、報告書「顧客本位の業務運営の進展に向けて」を公表した。「顧客本位の業務運営に関する原則」の策定から3年が経過する中、その定着状況を検証し、さらなる進展を目指すことと、認知判断能力が低下した高齢顧客やその家族等に対して、顧客本位の観点から、安心で利便性の高い対応を充実させることがポイントとなった。
 その中で「顧客本位の業務運営の更なる進展」は、①「原則」の具体的内容の充実②「原則」の一層の浸透・定着③不適切な販売事例の効果的な抑制―の3項目。①では「実効性を高めていくため、原則により求められる具体的な取組(原則の注記)に以下を追加▽顧客のライフプラン等を踏まえた業横断的な商品の提案及び商品提供後の適切なフォローアップの実施▽金融商品の組成に携わる金融事業者による想定顧客の公表▽リスクや手数料、利益相反等の情報を比較できるよう、各業者・商品毎の共通の情報提供フォーム「重要情報シート」の導入」、②では「金融庁において、事業者の取組状況等を「原則」の項目毎に比較可能な形で公表」、③では「法律上の誠実公正義務や適合性原則の内容を明確化するため監督指針を改正」とされていた。