2019.08.01 日本生命他 神経変性・認知症疾患共同研究講座設置説明会 予防・早期発見など探索的研究実現へ

 日本生命、順天堂大学、キリンホールディングス、三菱UFJリース、グローリー、三菱UFJ信託銀行は7月10日、「神経変性・認知症疾患共同研究講座(講座代表者順天堂大学医学部神経学講座服部信孝教授)」の設置を発表した。同講座では、高齢化に伴って発症するパーキンソン病や認知症などの神経変性疾患と認知症疾患の予防や早期発見・診断・治療のための探索的研究の実現に向けた産学連携に取り組む。それに伴い同日、東京都文京区の順天堂大学本郷・お茶の水キャンパスセンチュリータワーで説明会を開き、共同研究テーマの①食品介入などによる臨床研究②AIを用いた診療システムの開発―の二つのプロジェクトについて各社の担当者が取り組みを紹介した。

 服部教授は、神経変性疾患や脳疾患について、適切な生活習慣や早期発見が治療に不可欠なことや、患者ごとの症状に対応することが必要だとし、「神経変性疾患や認知症患者に対して、大学が持つ患者データと日常生活や健康食品を介入させることで、患者にとっての適切な生活習慣を明らかにしていく」と語った。
 同講座の目的については、神経変性疾患と認知症疾患に関して、産学連携によって「臨床的研究」と「診療システム開発」の二つのプロジェクトを遂行していくことだと説明した。「臨床研究」は、軽度認知機能低下のあるパーキンソン病に対して、食品による進行抑制効果の有無や嗅覚トレーニングによる認知機能改善効果、旅行による生活の質や運動機能への影響を検討する。
 「診療システム」は、デバイスを活用した遠隔診療によって患者の生活の質を向上させることや、神経変性疾患を対象とした診断支援や進行予防などに役立つ機能の開発に取り組むとした。
 次に、順天堂大学医学部神経学講座の大山彦光准教授が、AIを用いた診療システムの開発について説明。同大学では、17年から日本IBMとパーキンソン病などの神経難病の患者を対象にした遠隔診療サービスを始めていることを報告した。
 また今後は、遠隔診療のシステムにAIを投入したAI会話アプリの作成や、表情認識機能を用いた日常会話や音声データ・笑顔の特徴といった複合データを活用した認知機能低下状態の早期発見の可能性を検証することなどを報告した。
 キリンホールディングス執行役員R&D本部副本部長の近藤恵二氏は、「熟成ホップ苦味酸」と「βラクトリン」の摂取が認知症リスクの低減につながるといった調査やアルツハイマー病予防効果を検証する臨床試験を実施するとし、「低下した認知機能への作用を検証し、認知症予防のソリューションを開発していきたい」と意気込みを見せた。
 グローリー上席執行役員研究開発センター長の亀山博史氏は、同講座で、同社が開発した「表情認識技術」を用いて、遠隔診療により蓄積する医師と患者の対話データを解析し、笑顔の表情の特徴と認知機能の関連性を探索するとし、「顔を見るだけで認知症に罹患(りかん)するリスクの有無を判断できるようにしていきたい」と展望した。
 三菱UFJリース常務でヘルスケア事業部門長の塩澤広宣氏は、AI・画像認証技術を活用した診断システムの事業化に向け支援するとし、ファイナンシャル機能を提供する他、病診ネットワークの構築等を通じて、高齢化に伴い増加する神経変性や認知症疾患等の予防、早期発見、進行抑制に寄与する診断システムの開発・普及に貢献するとした。
 日本生命常務の岩崎裕彦氏は、「生保事業のヘルスケア領域の進化は『事業機会創造』であり、『保険ビジネスのパラダイムシフト』と認識している」と述べた上で、健康増進型の商品やサービスの拡充といった動きが出てきていると説明。
 さらに、万一に備える保険と健康寿命延伸に資するサービスが新たな社会的役割だとし、一人一人が「安心して・自分らしく」、より豊かに生活できるようにサポートするプラットフォーム企業を目指すとし、「同講座を通じて認知症における『共生』と『予防』に貢献する商品サービスを検討していく」と意気込みを表した。
 三菱UFJ信託銀行執行役員フロンティア戦略企画部長の石崎浩二氏は、高齢者の認知機能の変化に気付き、家族・専門家・地域につなぐことが金融機関の使命であり、高齢者一人一人の認知機能に応じたサービスを提供することが金融サービスのあるべき姿だと語った。
 この他、同講座では日本IBMのAIおよびデータ解析技術を研究開発に活用することから、同社常務で金融・保険・郵政システム事業部長の坪田知巳氏が登壇。遠隔診療や対話AIで、データ蓄積、認知症の予防や早期発見の可能性を探求する研究を支援すると述べた。
 また、認知症診察で多用される質問・声掛けを観察してAIが学習する対話スクリプトを作成する他、認知機能が低下した患者とAIによる対話を実施し、対話データを提供する考えを示した。