2019.02.08 損保協会・生保協会 「SDGsフォーラム」開く 業界一体での達成推進 鍵は“技術革新”と“パートナーシップ”

 日本損害保険協会と生命保険協会は1月23日、保険業界全体のSDGs達成に向けた取り組みを後押しすることを目的に、東京都千代田区のイイノホールで「SDGsフォーラム~持続可能な社会の実現に向けた保険業界の役割~」を開催した。当日は、外務省地球規模課題審議官の鈴木秀生氏とCSOネットワーク事務局長・理事の黒田かをり氏が、今後保険業界に期待される役割について講演した他、両氏と損保協会長の西澤敬二氏、生保協会長の稲垣精二氏を交えたパネルディスカッションが行われた。会場には保険業界関係や一般参加者、報道陣を含め437人が参集した。

 主催者を代表してオープニングスピーチを行った西澤氏は、2015年9月に国連総会で全会一致で採択されたSDGsについては、国内外を問わずその達成に向けてさまざまな取り組みが始まっていると述べ、「今回のフォーラムでは最近のトピックスを踏まえながら、あらためてSDGsについての理解を深めるとともに、保険業界の取り組みや課題を共有することで取り組みのさらなる発展につなげられるよう有意義な場にしていきたい」と開催趣旨を説明した。
 また同氏は、「SDGsはあらゆる視点で社会課題を解決し、包摂的で持続可能な社会を実現するために世界中のさまざまなステークホルダーが参加して作成した、人類の英知を結集した開発目標。企業がSDGsの達成と企業の持続的な成長を同時に達成していくためには、さらなる創造性の発揮とイノベーションの実現が必要になる。特に重要だと考えているのがデジタルテクノロジーとパートナーシップだ」と強調。同フォーラムが生保と損保のパートナーシップによって開催されていることに触れ、「これをきっかけに、他業界とも連携した取り組みに発展させ、SDGsの達成に貢献していきたい」と期待を示した。
 来賓としてあいさつした金融庁長官の遠藤俊英氏は、金融庁では庁内に「SDGs取組戦略PT」を設置し、金融庁が果たすべき役割について検討を重ねた結果、保険業界を含む各業界の取り組みをSDGsの観点から整理し、「金融行政とSDGs」として取りまとめたことを報告した。
 また、保険はその活動自体がSDGsに関連付けられるとした上で、近年、生保業界では、健康状態などの計測結果に基づいて保険料を割り引くといった健康意識を高める商品やサービスの提供が行われていること、損保業界では防災、減災に資する商品サービスを提供していること等を挙げて保険業界の自主的な取り組みを評価し、「本フォーラムを通じて保険業界でのSDGsの推進に関する議論が一層深まることと、引き続きSDGsの動きが日本経済の好循環につながっていくことを祈念する」と締めくくった。
 続いて、日本経済団体連合会(経団連)副会長の永易克典氏があいさつし、経団連が掲げる「Society5.0の実現を通じたSDGsの達成(Society5.0 for SDGs)」の実現に向けた最近の活動を紹介した。
 その上で同氏は、「保険業界は他の金融機関に比べてSDGsに向けた活動が活発に行われていると思うが、今後は長期的な経営戦略にSDGsの視点を取り込むだけでなく、具体的な行動に落とし込むことで社会的課題を解決すると同時に、ビジネス上の競争優位を獲得していく必要がある」と指摘。経団連では会員各社のSDGsに資するイノベーション事例を小冊子とウェブサイトで内外に発信していることを紹介し、「事例集やウェブサイトがプラットフォームとなり、各社のイノベーションがさらに有機的に結び付き、新たな価値が生まれるきっかけになることを期待している」と語った。
 基調講演①では、鈴木氏が「SDGs達成に向けた日本政府の取組みと今後の展望」と題して講演した。同氏はまず、SDGsの達成に向けて保険業界が担う役割として、リスクとニーズの多様化に対応したきめ細かな商品開発と、機関投資家としてのSDGsを育てていくような投資行動とエンゲージメントを挙げた。
 続いて政府の施策を紹介した同氏は、18年12月26日の推進本部会合で決定した「SDGsアクションプラン2019」について紹介した。同プランでは、①SDGsと連動する「Society5.0」の推進(特に中小企業)②SDGsを原動力とした地方創生、強靭(きょうじん)かつ環境に優しい魅力的なまちづくり③SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント―の3本柱を軸に活動を推進していくことが定められている。この他、グリーンファイナンスの推進や、水素社会の実現、海洋プラスチック問題への対応など、SDGsを取り巻くさまざまな課題を紹介した同氏は、「日本の競争力を高めるためにみんなで取り組んでいくのが政府の考えるSDGs。共により良い社会を目指していきたい」との考えを示した。
 基調講演②では、黒田氏が「SDGs達成に向けた民間セクターへの期待」をテーマに講演した。同氏の所属するCSOネットワークは、貧困をなくすためのグローバルキャンペーンへの参加や、市民社会に関する調査・研究、企業の社会的責任の推進、民間による開発支援の調査、企業とNPO・NGO等、異なるセクター間の連携の促進などを行う組織。
 同氏は、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念の重要性を語り、誰一人取り残さずに持続可能な開発を実現するためには、変革とイノベーションが欠かせないと強調した。
 また、SDGs活用に当たって重要なこととして、①SDGsの理念や考え方などの本質の理解②バリューチェーンでのマッピング③「アウトサイド・イン」アプローチ④横断的なイシュー(人権、女性のエンパワーメント、ジェンダーなど)への配慮⑤ステークホルダーとの対話・パートナーシップ―の5点を挙げ、企業に対しては、「経営理念をSDGsと統合し、企業活動の中核に位置付けることや、責任ある倫理的な企業行動、地域社会を含む多様なステークホルダーとの対話を期待している」と語った。
 休憩を挟んで行われたパネルディスカッションでは、黒田氏がモデレーターを務め、鈴木氏、稲垣氏、西澤氏がパネリストとしてそれぞれの活動について紹介した。
 その後、生損保協会の若手職員による未来に向けた決意表明が行われると、会場から温かい拍手が送られた。
 クロージングスピーチを行った稲垣氏は、参加者らに謝意を述べた上で、ホモサピエンスが絶滅を逃れている理由として、「未来を想像できる能力」と「互いに協力し合える能力」を持っていたためという説を紹介し、「目指す未来を描き、今すべきことを自律的に考え行動することは、人類に与えられた強みともいわれている。産官学一体となったパートナーシップを発揮し、人類の英知を結集して進化させていくことで社会課題を解決し、次世代とさらにその先の世代を支える持続可能な社会を実現していこう」と呼び掛けた。