2018.10.02 金融庁 「変革期における金融サービスの向上にむけて」 金融行政 今後の方針示す 「金融育成庁」へ動き加速

金融庁は9月26日、「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)~」を公表し、保険会社等を含む金融機関の金融行政に関する本事務年度の方針を示した。同庁では、平成27事務年度から、金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向け、いかなる方針で金融行政を行っていくかを、毎事務年度ごとに「金融行政方針」として公表。同方針に基づく行政を実施するとともに、その進捗(しんちょく)状況や実績は、分析や問題提起と合わせ、「金融レポート」として公表している。レポートの内容は、翌事務年度の金融行政方針に反映し、同庁では、PDCAサイクルに基づく業務運営が定着してきているとする。本事務年度では、PDCAサイクルに基づく業務運営を強化する観点から、従来の金融レポートと金融行政方針を一体として策定し、今回の公表となった。

 同庁は、6月で前身の金融監督庁の発足から数えて20年目の節目を迎えた。同文書では、2度の金融危機を含めたこの間の経験から得た教訓を踏まえ、広い視点で課題を先取りし、的確に政策を立案・実行する必要があるとの認識に立ち、PDCAサイクルをより強く意識した業務運営が求められると言及。「金融育成庁」への動きを加速させ、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大の実現を目指すとする。
 金融サービスの向上に向けた「金融育成庁」としての取り組みとして、①デジタライゼーションの加速的な進展への対応~金融デジタライゼーション戦略~②家計の安定的な資産形成の推進③活力ある資本市場の実現と市場の公正性・透明性の確保④金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保~経営者の役割とガバナンス~⑤顧客の信頼感・安心感の確保~金融機関の行為・規律に関する課題~⑥世界共通の課題の解決への貢献及び当局間のネットワーク・協力の強化⑦金融当局・金融行政運営の改革―の七つの重点施策を挙げた。
 このうち、②では、家計の安定的な資産形成を図るためには、金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用等を行う全ての金融事業者が顧客本位の業務運営を浸透・定着させることが重要との認識を確認。モニタリングの結果、昨事務年度は主要行等の営業店で一時払保険など月次のリスク性商品の販売額が四半期末ごとに増加し、特に運用環境に左右されにくい一時払保険の販売では顕著な増加が見られたとする。本事務年度では、今後、販売会社で、経営者が「顧客本位の業務運営に関する原則」を自らの理念としてどのように取り入れ、その実現に向けた戦略を立て、具体的な取り組みに結び付けているか、また、こうした理念・戦略・取り組みが営業現場でどのように浸透し、実践されているか等について、経営者等と対話を行うとともに、金融機関の取り組みの「見える化」を促進するため、比較可能な共通KPIの普及・浸透などを図るとした。
 ④では、保険会社が商品の「見える化」等に取り組むなど、顧客が自らのニーズにかなった適切な選択をなし得る環境を整備することが重要とした上で、内外経済・市場の変動や自然災害の激甚化、サイバー攻撃などリスクの変化に対応したリスク管理態勢、資産運用態勢の構築が肝要で、モニタリングの強化が求められているとする。一方で、医療・介護分野やデジタライゼーション、自動運転技術の進展など、新たな保険ニーズが出現する可能性があるとも指摘。こうした諸課題に対応するには、経営全般についてガバナンスが有効に機能することが重要との認識を示した。
 ④の各個別課題の中で、「顧客本位の業務運営」については、貯蓄性保険の販売に当たって、商品固有の特性やリスクなど、商品が自らのニーズに合致しているか顧客が理解することが重要と強調。金融機関代理店での保険販売について、各保険会社の顧客本位の業務運営方針に基づく業務実態をモニタリングした結果、商品内容の情報提供が必ずしも分かりやすく行われていないことを確認したとする。本事務年度は、販売時の分かりやすい情報提供について、貯蓄性保険、特に外貨建保険を中心に、各保険会社に募集資料の改善を求めるとともに、その状況を確認し、ベストプラクティスの共有を図ることで一層の改善を促す等、各社の取り組みをフォローアップする。また、金融機関代理店を中心に、その募集実態を把握し、顧客の取引目的・ニーズや知識・経験等を十分に理解した上での適切な推奨・販売等が行われているか検証する。代理店手数料についても、顧客にその合理性を適切に説明できるような取り組みを前向きに行えるよう、深度ある対話を行うとしている。
 「保険会社を取り巻くリスク等に関するモニタリング」については、近年、北米のハリケーンやニュージーランド地震、タイの洪水など巨額損害が生じており、国内でも自然災害リスクに係る支払保険金が高額となる傾向にあると指摘。サイバー攻撃の損害を補償する保険については、損害データが乏しいこと、攻撃手法の変化が速いこと等を踏まえた保険引受リスク管理が損保会社の課題となっているとした。また、生保会社では、一部の円建貯蓄性商品の販売を抑制する動きがある他、外国社債等への投資を増加させる動きが継続。スチュワードシップ活動の取り組みについては、大手4社で第三者委員会等で外部の有識者委員から意見を聴取する等、取り組みの強化が見られるとともに、地域銀行との対話を重視するなど、対話先の拡充を進めているとした。
 その上で、本事務年度では、自然災害リスクについて、保険会社の引受方針や再保険手配等によるリスク軽減策等の保険引受リスク管理態勢に関する実態把握や管理態勢の高度化に向けた対話を行うとともに、モニタリングの高度化に取り組む方針を示した。サイバーリスクについては、商品内容や適切な引受管理態勢の確立、リスク評価手法の高度化等について対話を行うとする。また、現行のソルベンシー規制では十分に捉えられていないリスクも包括的に考慮した健全性を把握する「動的な監督」に取り組むことが不可欠となっているため、保険会社のリスク管理の高度化を促しつつ、資産・負債を経済価値ベースで評価する考え方を検査・監督に取り入れていくとともに、国際資本基準(ICS)に遅れないタイミングでの導入を念頭に、関係者と広範な議論を行っていくとした。資産運用については、金利・為替・株価の変動による市場リスク等について、保険会社の財務への影響を引き続き注視していくとし、ERMの高度化等を通じてリスク管理態勢の向上に向けた対話を行うとした。併せて、スチュワードシップ活動についても各社の取組状況を確認し、投資先との対話の質の向上や議決権行使結果の公表等、さらなる充実を促すとする。
 また、「持続可能なビジネスモデルの構築・ガバナンス」については、国内事業とリスクプロファイル等の異なる海外事業で、安定的なビジネスモデルを確立するためには、取締役会が会社の将来像等を示した上で、具体的な海外事業戦略を策定して新たなリスクに対処することや海外買収拠点の重要な意思決定に対して日本の本社が十分に関与していくことが重要とする。その上で、本事務年度の方針として、社会環境の変化等が、各社の事業展開や営業戦略、販売チャネル等のビジネスモデルに与える影響について、長期的な視点から、経営陣等と幅広く対話を行うとし、保険会社が環境変化に対応した商品・サービスを開発していくことは、持続可能なビジネスモデルの構築にもつながっていくものであることから、金融庁としても、引き続き、保険会社との対話等を通じて問題認識や好ましい取組事例の共有を図る等、前向きに対応を行うとする。さらに、経営全般にわたるガバナンス機能について、取締役会等が重要な経営判断の過程で深度ある議論を行っているか等、ガバナンスの実効性を確認し、経営陣等と実効性の向上に向けた対話を行う他、内部監査の高度化も促すとする。
 少額短期保険業者については、本事務年度の方針として各財務局との連携をより強化しつつ、経過措置適用業者の監督に当たっては、本則への円滑な移行の観点から、各業者の経過措置終了を見据えた検討状況について、ヒアリングを行うなどとした。