2018.08.28 金融庁 マネロン・テロ資金対策で「現状と課題」 保険会社等へ態勢整備促す

金融庁はこのほど、金融機関等の実効的な態勢整備を促す観点から、2月に公表した「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(ガイドライン)以降の金融庁の取り組みと所管の金融機関等の対応状況等を中心に、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」(現状と課題)を取りまとめ、公表した。マネー・ローンダリングやテロリストへの資金供与を未然に防ぐためには、各国が協調して対策を講じ、これを的確に実施することが重要とされ、特に地政学リスクの高まりや世界各地でのテロの頻発を踏まえ、日本でも、その高度化が求められている。金融庁では、来年予定の第4次FATF(注)対日相互審査も踏まえ、官民双方が連携して、マネロンやテロ資金供与に利用されない金融システムを確保するための態勢強化を図ることが重要との認識を示すとともに、同庁がモニタリングで得た情報や考え方を還元することで、「実効的な態勢整備の一助となれば」としている。併せて、金融機関等の利用者にも、マネロン・テロ資金供与対策に対する国際的な要請が高まっているとの理解を広めたい考え。

 「現状と課題」の中で、保険会社については、「保険金の給付要件が限定されている点で、国内外の顧客に対して即時に預貯金等を払い出し、また送金・決済等を取り扱う預金取扱金融機関とは異なるリスクに直面している」と指摘。
 生保会社の一時払い終身保険や養老保険、損保会社の積立型保険といった、契約満了前に中途解約を行った場合にも高い解約返戻金が支払われるような貯蓄性を有する商品については、犯罪による収益を即時または繰り延べて資産化することが可能だとして、「こうした商品には、マネロン・テロ資金供与リスクが存在していることに留意を要する」と注意を促した。
 インターネット等の普及による非対面取引の拡大、募集人や代理店等の介在および非居住者等に対する海外送金を伴う取引等、生命保険・損害保険それぞれの販売・資金受け渡しの場面で、マネロン・テロ資金供与リスクについても、その状況に応じて、具体的な検証を行うことが求められると言及。例えば、海上保険等の保険金支払い、保険契約締結後に外国に転居した非居住者に対する生命保険金等の支払いに関して、国境をまたぐ多額の取引である点も踏まえたリスク分析が十分に行われていないという事例や、複数の代理店にまたがる保険契約締結に際して、取引時確認の適正性を確保するための規程等の整備に課題が見られる事例が確認されたとした。
 その上で、保険会社に対しては、「まずは、自社の取り扱う商品と、入出金の具体的な場面において、いかなるマネロン・テロ資金供与リスクに直面しているのか、全社的な視点から洗い出しを行うことが必要」と指摘した。
 また、リスクの高い取引の把握には、システム面も活用した異常取引の検知等も重要な契機となるものであり、保険会社でも、例えば、貯蓄性の高い保険商品について、「中途解約やクーリング・オフにより契約締結から短期間のうちに多額の解約返戻金を受け取る異常取引等について、システム等を用いてモニタリングを行う」などの方策が考えられるとした。
 金融庁では、ガイドラインに基づく施策として、今年5月と6月に、保険会社を含む各金融機関等に対し、ガイドラインの「対応が求められる事項」とのギャップを分析し、それを埋めるための具体的な行動計画を策定・実施するよう要請した他、3月からは、保険会社などに対し、取引実態とマネロン・テロ資金供与対策の実施状況等に係る定量・定性情報について報告を求めた。また、1月からは金融庁幹部が3メガバンクや保険会社等の計19機関の経営陣を訪ね、マネロン・テロ資金供与対策の高度化に、経営陣の関与が欠かせないこと等を説明し、積極的な対応を要請している。今回、ヒアリングやモニタリングから見られた金融機関等のマネロン・テロ資金供与対策の現状・傾向などを取りまとめた。
 (注)FATF(金融活動作業部会):マネー・ローンダリング対策における国際協調を推進するために設立された政府間会合