2018.07.06 損保協会 西澤協会長が就任、二つの観点で中計推進

損保協会は、6月29日に開催した定時社員総会で西澤敬二氏(損保ジャパン日本興亜社長)が協会長に就任した。西澤協会長は7月2日の就任記者会見で、2018年度からスタートした第8次中期基本計画について、初年度となる18年度は、①持続可能な社会実現への貢献(SDGs達成への貢献)②技術革新の促進への貢献(Society5.0実現への貢献)―の二つの観点から、重点課題に対応する施策を推進する考えを示した。また、「安心・安全で持続可能な日本の未来に貢献するため、損保協会の会長として誠心誠意努めていきたい」と抱負を語った。

 記者会見で西澤協会長はまず、6月18日に発生した大阪府北部を震源とする地震について触れ、「各社とも地震直後から対策本部を立ち上げ、顧客に一日でも早く保険金のお支払いができるよう、業界一丸となって対応を進めている。被災者の心のケアを含め、一刻も早く生活基盤の整備が進むことを心から願っている」と述べた。
 環境認識については、世界経済は着実に成長を続けている一方、米国や欧州などでは段階的な金融政策の引き締めの動きが見られ、それに伴う金利の上昇が一部の国や地域の弱みを顕在化させて、ひいては世界経済全体が減速する恐れがあると指摘した。
 国内経済は、政府によるさまざまな政策の推進や堅調な海外経済に後押しされ、企業業績は最高益を更新しており、雇用・所得環境も改善しているとした。一方、中長期的な観点では、少子高齢化や労働力人口の減少に伴う社会保障費の増加など、世界に先駆けて待ったなしの社会的課題に直面しているとし、課題の克服につながる技術革新の一層の促進や社会制度の見直しといった変革に期待していると述べた。
 第8次中期基本計画では、取り組みの方向性として、①環境変化への迅速・的確な対応②お客さま視点での業務運営の推進③より強固で安定的な保険制度の確立④国際保険市場におけるさらなる役割の発揮―の4本柱を定めていると説明。初年度である18年度は、持続可能な社会実現への貢献(SDGs達成への貢献)と技術革新の促進への貢献(Society5.0実現への貢献)の観点から、重点課題に対応する施策を推進するとした。
 持続可能な社会実現への貢献に向けては、社会経済システムから、場合によっては人の価値観まで変革していく必要がある他、この課題解決のためにはエコシステムも非常に重要なキーになるとし、「損保業界では長年にわたって防災・減災や事故防止といったSDGsと関連の深い取り組みを行ってきたが、損保業界が果たすべき社会的役割を、SDGsの観点から再確認し、どのような貢献ができるのか検討していきたい」と語った。
 技術革新の促進への貢献については、既にグローバルプレーヤーはオープンイノベーションやエコシステムの構築に動いているとし、「個社単位でデジタル時代に対応していくことはできないというのが世界共通の認識になりつつあり、これは保険業界自体の業態を超えた競争時代に突入することを意味している。デジタル技術の進展はサービスの高度化や生産性の向上などが期待されるが、サイバーリスクへの対応や各種法制度の整備などの課題もある。Society5.0の実現に貢献する観点から、具体的な取り組みを実行していく」と述べた。
 その後の記者団とのやりとりでは、自動運転技術の進展について、3月に国土交通省が公表した「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」の報告書について触れた上で、例えばレベル5の完全自動運転車が実現した際に、自動車メーカーに責任がある場合における求償で実効性ある仕組みや損害賠償制度の問題など、さまざまな課題があると指摘。これらに対してフォワードルッキングの視点で取り組んでいくことが重要だとした。
 また、日本でも20年にはレベル4の自動運転や一部公共交通機関のシェアリングを目指す取り組みが実験的に始まっているとし、「損保業界は基本的には“所有する”社会の中で保険を設計してきたが、今後、共有社会が到来した時には新しい設計や思想が必要になる。将来を見据えてさまざまな課題に対して検討していく必要がある」との認識を示した。
 サイバーセキュリティーリスクは、デジタル社会が進展する中でリスクが増すことは間違いないと指摘。大企業を中心にリスクに対する認識は強くなっているが、保険だけでセーフティーネットを構築できるものではないとし、「重要なことは、個人も企業もリスクを認識し、防御策を講じること。個社ではリスクコンサルティングや保険の販売などを行っているが、業界全体としても世の中に啓発活動ができるのであれば、業界の使命なのではないか」と述べた。
 金融庁の検査・監督基本方針については、金融機関との間で「探究型対話」を行っていく方針を打ち出していることなどに対して期待を示した。