2018.07.04 金融庁「検査・監督基本方針」公表、実質・未来・全体に視野拡大

 金融庁は6月29日、新しい検査・監督の基本的な考え方と進め方を整理した「検査・監督基本方針」を公表した。金融モニタリング有識者会議が昨年3月に公表した報告書「検査・監督改革の方向と課題」を踏まえ、金融行政の視野をこれまでの「形式・過去・部分」から「実質・未来・全体」に広げ、金融行政の究極的目標である「国民の厚生の最大化」により効果的に寄与することを目指す。これまで検査に関する方針を示していた検査マニュアルは2018年度終了後(19年4月1日以降)をめどに廃止され、分野別の検査・監督に関する考え方や進め方をディスカッション・ペーパーなどの形で提示していくとしており、今後、保険会社に向けたものも公表されるとみられる。

 「検査・監督基本方針」は、①本方針の趣旨②金融行政の基本的な考え方③検査・監督の進め方④当局の態勢整備―で構成される。検査・監督の進め方では、これまでの「形式(担保・保証の有無やルール順守の証拠づくりを必要以上に重視)・過去(足元のバランスシートや過去のコンプライアンス違反を重視)・部分(個別の資産査定に集中し、問題発生の根本原因の究明や必要な対策の議論を軽視)」に偏った手法から「実質(最低基準が形式的に守られているかではなく、実質的に良質な金融サービスの提供やリスク管理等ができているか)・未来(過去の一時点の健全性の確認ではなく、将来に向けた健全性が確保されているか)・全体(特定の個別問題への対応に集中するのではなく、真に重要な問題への対応ができているか)」へと視野を広げていく。
 また、「実質・未来・全体」に重点を置いた新しい検査・監督では、普段から金融機関についての理解を深め、重点課題に焦点を当てる「全体を見た、実質重視の最低基準検証」、将来の健全性を分析し、前広に対応を議論する「動的な監督」、横並びでない取り組みに向けた動機とヒントを提供する「見える化と探求型対話」を中心に取り組んでいく。
 当局の態勢整備では、「実質・未来・全体」の視点から行政を進める上で、当局側により的確な判断ができる能力が必要になることから、金融庁のガバナンス、検査・監督の品質管理、検査マニュアル等の諸規程、組織、人材、情報インフラ等について、具体的な改善を計画的・組織的に進めるとしている。監督・検査に関する方針の示し方については、これまで実地検査の手引きである「検査マニュアル」と、法令の適用・解釈の明確化や許認可・行政処分の手順等を示した「監督指針」が中心だったが、検査マニュアルについては、金融機関が対応すべき事項のみを網羅的、かつ簡潔に示すチェックリストの形になっており、「形式・過去・部分」への集中を生じやすいことから、18年度終了後をめどに廃止する。
 一方で、「実質・未来・全体」に重点を置いた検査・監督を進めるために、結論よりは考え方・進め方・プリンシプルを示して各金融機関が金融行政の目的にかなった判断ができるようにする必要があることから、基本方針の他に、分野ごとの固有の考え方や進め方を別途示していく方針としている。具体的には、議論のための材料であることを明示した文書(ディスカッション・ペーパー)を活用し、必要に応じてプリンシプルにまとめていく。ディスカッション・ペーパーで扱うテーマには、コンプライアンス、リスク管理といった一般的なテーマやストレステストの進め方、ⅠTガバナンスの在り方などより具体的なテーマの他、特定の業態に固有のテーマも含まれており、今後、保険会社向けに策定していくとみられる。
 今回の見直しは、詳細なルールを示した固定的な「バイブル」に依拠していた従来の検査・監督手法から、当局と金融機関が双方向の対話を通じて互いにレベルの向上を目指すという、近年、当局が進めていた改革の方向性をより明確に打ち出したものといえる。