2018.03.09 変わる防災の取り組み
2011年の東日本大震災から7年が経過しようとしている。この間、国による大規模地震対策の前提となっていた「地震予知」の見直しが提言される一方、地方自治体や企業、個人といった各主体による防災の取り組みや連携は、より実態に即したものに変化している。損保業界でも、大規模災害発生時に迅速に保険金が支払える態勢を整備しつつ、地域防災・減災活動の助言や支援を強化している。
1978年施行の大規模地震対策特別措置法(大震法)により、地震予知情報に基づく警戒宣言の発令後に、緊急的な対応を的確に実施することで被害を軽減する仕組みが導入され、長く大規模地震対策の要となってきたが、2013年に「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」は「現在の科学的知見からは、確度の高い地震予知は難しい」と結論付けた。これに基づき、17年に「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ」が、最終報告案を提出し、現行の地震防災対応策を改める必要性を指摘する一方、「現在の科学的知見を防災対応に活かしていくことが重要だ」とし、異常な現象を評価しどのような防災対策が適切かを、地方公共団体や企業などと合意を形成しつつ検討していくことが必要だとした。
最終報告案ではさらに、南海トラフで観測される可能性が高く、大規模地震となって社会を混乱させる恐れがあるものとして①南海トラフの東側の領域で大規模地震が発生した場合②南海トラフ沿いでマグニチュード7.0クラスの地震が発生した場合③「ゆっくりすべり」や前震活動などの現象が多種目で観測されている場合④東海地震予知情報の判定基準とされるようなプレート境界面での前駆すべりや、これまで観測されたことがないような大きな「ゆっくりすべり」が見られる場合―といった4ケースを挙げ、それぞれ防災対応の方向性を示した。
自治体の活動
効果的な防災には、防災計画の立案と計画の実行を担保する訓練が2本柱となる。計画立案の前提として正確な実態の把握が必要となるが、地域の自治体と住民が協力してその役割を果たしてきた例がある。東京都が行ってきた「地震に関する地域危険度測定調査」により、都や区の職員が危険度の高いとされた区で、耐震基準強化以前に建てられた住宅を個別訪問する一方、町内会では建て替えや住み替えについての助成制度の周知を図るなど、行政と住民は危険度の低下を目指して取り組みを進めている。
同調査は1975年以降、おおむね5年ごとに実施されており、今年2月15日に8回目の調査結果が発表された。前回までの総合評価は「建物倒壊」と「火災」の危険度要素で判定していたが、今回から「避難や消火活動・救援活動の困難さ」も追加。都内で最も弱い地盤で震度6強に相当する地震が起きた場合を想定し、都内5177地区をランク付けした。最も危険度の高い「5ランク」とされたのは85地域で、全体の1.6%を占めた。都全体では前回調査に比べ、耐震性の高い建物への建て替えや耐震改修などで倒壊の恐れは2割程度、延焼を食い止める道路の整備などで、火災の危険は4割程度下がっている。内容はホームページに掲載され、「市区」よりもっときめの細かい、「~丁目」レベルまでの危険度が分かる仕組みだ。
損保業界の取り組み
損保業界は、国民の防災意識の向上に長く取り組んできたが、近年、損保各社ではさらに一歩踏み込み、直接地域に役立つことを目的に、県や市などの地方自治体と包括連携協定を結び、防災計画の立案、地震への対応などに対して助言や支援を取り決め、実行している。こうした流れは、今後もますます強まりそうだ。
損保協会は、創立100年の歩みの中で「防災事業・防災教育」に最も力を入れてきた。全国各地で展開している防災啓発セミナー等の活動の他、防火ポスター・防火標語を公募し、そのポスターを全国に掲出したり、消防車を市区町村や離島に2912台寄贈したりする一方、「ぼうさい探検隊」の活動では、子どもたちが住んでいる地域の危険な場所や施設・設備をマップにまとめ発表する取り組みを進めてきた。さらに、近年は、より地域住民に密着した防災イベントを実施し、ショッピングモールなどのイベントで「地震ザブトン」などの地震体験装置を使っている。
これら「防災事業・防災教育」は、地域の自治体や学校などとの協力により行われてきたが、その規模と継続性では他に例がなく、地域防災力向上への支援や社会貢献活動としての評価は高い。
また、長年取り組んできた活動として、地震保険の普及が挙げられる。大規模震災が起こるたびに、地震保険が被災者の生活再建に大きく役立つことは証明されてきた。同協会は今後も、各社と力を合わせて、自治体等との連携も含めて地震保険普及にも一層の努力を重ねたいとしている。