2017.03.10 震災特集2017 地震リスクを検証する

 気象庁によると、2016年に国内で発生した震度4以上の地震は192回、最大震度5弱以上を観測した地震は33回に上る。最大震度を記録したのは4月14日と16日に熊本県熊本地方で発生した熊本地震。震度7(マグニチュード6.5と7.3)を記録した。発災直後には18万人を超える人々が避難を余儀なくされた。予測不能な地震被害をいかに軽減できるか―この難しい課題に対して、保険業界は、地震保険の普及促進に加えて、新たなテクノロジーの活用にも取り組んでいる。本特集では、東日本大震災から間もなく6年を迎える今、あらためて日本の抱える地震リスクを見詰め直し、阪神・淡路大震災や東日本大震災の経験を振り返りながら、最新の対策や保険業界が取り組むべき課題を検証する。

福島県 経済の停滞に懸念
 東日本大震災で大きな被害を受けた岩手・宮城・福島の3県では、17年1月末現在も3万3748世帯、7万1113人が仮設住宅での暮らしを続けている。岩手と宮城では住宅再建が進み、その数は大きく減少しているが、東京電力福島第一原発事故の影響が色濃く残る福島では、避難指示が解除される見通しが立たない地域もあり、先行きは不透明なままだ。
 一方で、自主避難者への仮設供与はこの3月で終わる。現在仮設で暮らす自主避難者には高齢者も多く、自宅に戻ってからの生活再建には課題が山積している。復興住宅の建設も進められているが、3月からは家賃補助が終了するため、住民の負担の増加が懸念されている。こうした状況の下、福島県の保険代理店は、地域経済の停滞や地域住民の高齢化といった課題への対応を模索している(3面)。
 記者の視点では、福島第一原発の横を走る国道6号線の様子と共に、原発事故が保険マーケットに与える影響を紹介(11面)。「石碑は語る」特別編では宮城県岩沼市の「千年の丘」を取り上げる(12面)。

企業BCPは代替戦略へ
 東日本大震災による震災関連倒産件数は17年2月28日現在で1784件に及ぶ。震災後、それまで策定していたBCPが機能しなかったという話が各所で聞かれたが、東京海上日動リスクコンサルティング主幹研究員の指田朝久氏はBCPの目的を防災と原状回復だとする考え方に問題があったと指摘する。
 同氏が推奨する代替戦略としてのBCPでは、生産拠点や本社など活動の足場が使えなくなることを前提に計画を策定するため、震災以外の緊急事態にも対応できるという。さらに中小企業に対しては、コストを抑えつつ、拠点を多重化する施策を提案する(2面)。
 本特集では熊本地震の際、実際にBCPを発動させて迅速な顧客対応に努めた代理店事例(4面)の他、新たな取り組みとしてタブレット端末による損害調査など、テクノロジーが災害現場でいかに業務をサポートしているかを紹介する(3面・5面)。また、22年前の阪神・淡路大震災で東京海上取締役神戸支店長として現地の指揮を執った瀬尾征男氏に災害対応のポイントを聞く(10面)。

〝補償ギャップ〟の解消課題に
 16年11月22日に福島県沖で発生した最大震度5弱の地震に6年前の震災の恐怖を重ねた人も多かったのではないだろうか。地球上の四つものプレートの接合部に位置する日本での生活は常に地震と隣り合わせであり、未発見の活断層があることを考えれば絶対に安全だと言える場所はないのが現実だ(8~9面)。
 人口50万人以上の政令指定都市が各地に分散する日本でひとたび巨大地震が起きれば、経済的損害だけを見ても莫大な金額になる。東日本大震災以降、多くの企業がBCPの策定に取り組んできたが、熊本地震でも保険による経済損害のカバー率は20%弱と低く、補償ギャップが大きな課題となっている(5面)。
 個人の地震保険の付帯率を見ても、地域ごとにかなりの開きが見受けられる(6~7面)。この集計は、居住用建物と生活用動産を対象として損保会社が扱っている「地震保険」のみの数値であり、各種共済契約は含まれていないため、一概には言えないが、今後想定される大地震への備えには不安が残る。