2017.01.13 エーオンベンフィールドジャパン、ディープラーニング活用

 エーオンベンフィールドジャパンは、ディープラーニング(深層学習)を用いた風災リスク評価の手法を開発した。今年の台風シーズンまでには運用が開始される予定で、現在、実用化に向けて最終調整を行っている段階だという。ディープラーニングを航空写真に適用することで屋根情報をデータベース化し、風災による被害を建物ごとに評価するというもの。開発に当たった同社の岡崎豪氏は「台風の損害査定業務が大きく変わる」と述べるとともに、建物ごとの評価・個別料率への適応を示唆する。
 屋根は台風による被害を最も受けやすく、1事故当たりに占める損害額も大きい。岡崎氏の研究において、屋根に関する情報データベースの構築は長年の課題だったが、近年のディープラーニング技術の発達によってそれが可能になったという。具体的には、ディープラーニングにより屋根の形状を学習し、学習したアルゴリズムを航空写真に適用することで、個々の建物の屋根形状を判別していく。ディープラーニングによる屋根形状の判定誤差は6%程度と正答率は高い。分析対象の建物数は約6500万に上り、小さな建物や工場内の建屋も個別に分析。全ての建物に固有コードを付与しており、国内の屋根画像は網羅した。
 実際の活用に当たっては、台風通過後、各地点で観測される観測風速と建物データべースを組み合わせ、建物ごとに被害の有無を判定していく。同氏は「台風による被害を発災直後に把握できれば、損害査定の応援要員を急派すべきかの意思決定を素早く行うことができ、被災者への迅速な支援が可能となる」と活用法を示す。現状、被災件数の把握は電話での確認が主な手段だ。しかし、これでは早くても数日を要するため、発災直後に被災の全容が把握できない。同システムは、被災直後の航空写真から被災建物を特定するのではなく、平常時の屋根の状態と観測風速から被災した家屋を推定するため、ほぼリアルタイムで分析結果が得られる利点がある。
 また同氏は、現行の火災保険の料率を整理する必要性を唱える。火災保険の支払保険金において最も大きな割合を占めるのは風災リスクだが、料率の区分は火災リスクに基づいて設計されているためだ。「風災に関しては同システムを活用して、建物ごとに評価し、個別料率を算出できる」という。料率の分類は最もリスクの低いAから最高のGに分割し、それをさらに細分化した。G評価は土地利用規制に近い効果をもたらすことになる。保険業界として、料率にこうしたメッセージ性を持たせることは社会的にも意義があると強調する。
 課題もある。航空写真が古く、解像度が低いためにディープラーニングによる判定精度が落ちてしまう地域がある。また都市部においては、数年に1回程度の撮影画像では街並みの変化に追い付かない。「最終的には毎年アップデートしていきたい」と言い、ドローンの活用に期待を寄せる。
 今後については、屋根以外の情報として建物階数や再調達価額などあらゆる情報をデータベースに追加し、火災・水災・盗難リスクなどの評価に取り組みたいという。「ディープラーニングの発展は著しいが、その技術の採用に固執はしていない。従来の機械学習の手法や外部データベースとの連携も含めて、それぞれのリスクごとにベストなものを採用していきたい」と展望する。