2016.10.04 AIUが環境汚染賠責の販売強化、韓国の付保義務化契機に
韓国で7月から、環境汚染を引き起こす恐れのある企業に環境汚染賠償責任保険の加入を義務付ける法律が施行されたことを受け、AIUは韓国に工場施設などを持つ日本企業に同保険を推進している。主に大企業・中堅企業を対象として、強制保険の上乗せ補償などを日本国内物件のカバーと組み合わせて契約するマルチナショナル保険プログラムを提案する。隣国の規制強化を契機に、なかなか浸透しない国内マーケットを開拓していく考えだ。
7月1日に韓国で施行されたのは「環境被害救済賠償責任法(Act on Liability for Environmental Damage and Relief Thereof)」。政府が指定する有害物質を排気・排水する工場の保有企業に対して環境汚染への厳格な責任を負わせ、工場単位で保険加入を義務付ける。工場の規模などで高リスク(ア群)、中リスク(イ群)、低リスク(ウ群)に分け、賠償限度額をそれぞれ2000億ウォン(約200億円)、1000億ウォン(約100億円)、500億ウォン(約50億円)に定めている。被害者への迅速な補償を可能にする一方で、事故原因企業の倒産などを防ぐ狙いがある。2012年に化学メーカーの工場で大規模な環境汚染事故が発生したことが法制化のきっかけになっており、未加入企業には罰則規定と行政処分を設けている。
環境汚染賠償責任保険は、保険始期日以降に発生した突発・蓄積性の環境汚染に起因する工場敷地外への損害(身体障害、財物損壊、汚染浄化費用)や弁護士費用を補償。リスク区分に応じて保険金額をア群300億ウォン(約30億円)、イ群80億~100億ウォン(約8億~10億円)、ウ群30億~50億ウォン(約3億~5億円)に設定している。幹事会社の東部火災やNH農業損保と共に、AIGグループのAIG損保(韓国)が共同保険方式で引き受ける。加入義務の対象は約1万施設に上り、韓国に進出している日本のメーカー数百社の施設も相当数含まれるとみられる。
AIUは、法的な賠償限度額に対して強制保険の保険金額が低く設定されていることや、補償範囲が限定的であることから、当該施設を持つ日本の大企業・中堅企業を中心に、強制保険の上乗せ分や、補償対象外となっている工場敷地内の汚染浄化費用などを補償し、日本国内の物件に対する補償と併せて一元的な補償を提供するマルチナショナル保険プログラムを提供。海外拠点に付保する保険を本社で一括管理できる他、まとめて契約することによるスケールメリットが得られる。
同社は、世界100以上の国・地域で事業展開し、そのうち60以上の国・地域で現地証券を発行できるAIGグループのネットワークとノウハウにより、1992年から同保険を販売。最大保険金額を原則、5000万USドル(約50億円)まで設定できる上、グループ全体のキャパシティーでの引き受けにより、国内マーケットより低水準の保険料で提供している。企業保険担当執行役員の御厨志郎氏は「グローバルに事業展開しているAIGが企業向け保険を引き受けているノウハウを、今回の環境汚染賠償責任保険の推進に当たっても活用していきたい」としている。欧米では環境汚染賠償責任保険の付保は一般的だが、日本では普及は進んでおらず、韓国での規制導入により、ブローカー、直販営業社員、プロ代理店チャネルを通じて積極的にアプローチしていく。スペシャリティーライン統括部環境保険チームの城智宏マネージャーは「今回の保険加入義務化では、グループのノウハウが評価されたこともあって韓国の現地法人が引受会社に名を連ねており、当社では制度の仕組みや補償内容を把握している。対象となった日本企業の環境汚染リスクに対する補償が十分でない可能性があることから、リスクに応じた補償プログラムを積極的に提案していきたい。また、韓国・日本以外に工場を保有する企業にも、環境汚染賠償責任保険のマルチナショナル保険プログラムを検討する機会としていただきたい」として、今後の推進に意欲を示している。