2016.09.28 金融庁、金融行政進捗を確認・評価、M&AやERMの問題点指摘

 金融庁は9月15日、「平成27事務年度 金融レポート」を公表した。同レポートは、平成27事務年度にどのような方針で金融行政を行っていくかについてまとめた、昨年9月に発表された「金融行政方針」の金融行政のPDCAサイクルを強く意識し、その進捗(しんちょく)状況や実績などを継続的に評価し、平成28事務年度(2016年7月~17年6月末まで)の「金融行政方針」に反映させることを目的としている。金融庁では同レポートを、金融行政の透明性の一層の向上や、当局と金融サービス利用者・金融機関・市場関係者などの間での認識の共有、当局との建設的対話を通じたより良い金融行政の実現、ひいては、金融システム・金融市場の健全な発展につなげたい考え。
 レポートでは「平成27事務年度 金融行政方針」に掲げた金融行政の重点施策に基づいて、①金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保②活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保③顧客の信頼・安心感の確保④IT技術の進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応⑤国際的な課題への対応⑥その他の重点施策―の6施策について進捗確認と評価を行った。
 保険会社については、①の中で、少子高齢化の進展や新技術の導入、保険ニーズの多様化など環境変化が進む中での経営課題などについて、さらに近年、経営環境の変化に応じてM&Aによる海外業務の急速な拡大や事業再編を行っていることを踏まえ、大手生損保各社のM&Aにおけるガバナンスの発揮状況などについてモニタリングを実施した。加えて、保険会社から提出されるリスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)の状況を取りまとめたORSAレポートを活用し、同レポートを基にERMヒアリングを実施した上で、ERM評価を行った。
 保険会社の収益構造や事業戦略の持続可能性について金融庁は、今後、生保加入の中核層となる30~40歳代のボリュームの縮小が予想され、また、自動車保険の総契約台数が漸減傾向で特に若年者の減少が顕著なことを挙げ、保険会社にとってこうした経営環境は、働き盛り世代に終身保険や自動車保険などを販売していく伝統的なビジネスの限界を示す一方、高齢化に伴う医療・介護保障ニーズの高まりや新技術導入などによる保険ニーズの多様化といったビジネスチャンスにもなる他、積極的な海外展開の契機にもなるとの考えを示した。
 また、大手生損保を中心に今後の経営課題などについて総合的なヒアリングを実施した結果、多くの保険会社で、中長期的な経営戦略における海外事業の位置付けや、欧州系のグローバル保険グループを中心として進んでいる経済価値ベースのリスク管理をどのように自社のリスク管理に取り入れるかなど、環境変化への対応に向けて共通の課題があることがうかがわれたとした。
 また金融庁は、近年、大手生損保が相次いで国内外の保険会社などの大型M&Aを実施したことを受けて、M&A実施に当たっての取締役会での議論や経営陣のリーダーシップの状況について国内一般事業会社の取り組みも参考にしつつ実態把握を実施。結果、ガバナンスが不十分な事例が見られたとし、M&A実施に当たっては、取締役会が会社の将来像を描いた上で、経営戦略を策定し、経営戦略に基づいた具体的な海外事業方針などの下、重要事項を十分議論して迅速かつ的確な経営判断をすることや、買収先を適切に管理するための態勢を整備することなど、実質的にガバナンス機能を発揮して業務を進めていくことが重要だと指摘した。
 保険会社のERM評価については既報の通り。
 ゆうちょ銀行とかんぽ生命については、今後は上場企業として企業価値の向上を目指し、中期経営計画に掲げる資金運用・リスク管理の高度化、郵便局ネットワークを活用した優れた金融商品の販売、民間金融機関との連携―などに取り組むことが重要だとし、今後の課題として、特に民間金融機関との連携、郵便局ネットワークの活用などを通じた金融サービスの向上や地方創生への貢献が重要だとした。そのために経営資源を集中すべき具体的な業務について議論を深め、積極的な取り組みを促すとともに、民間金融機関に対しても、金融サービスの向上や地方創生へ貢献する業務での連携・協調を促していくとした。