2016.09.21 損保協会の熊本地震対応、査定簡素化や特別措置標準化が課題

 損保協会は9月16日、業界紙向け定例記者会見を行い、4月に発生した熊本地震に対する損保業界の対応について総括した。今後の課題として損害査定の簡素化や特別措置の標準化、事業継続計画(BCP)の見直しなどを挙げた。この他、前日に日銀記者クラブで行った北沢利文協会長の記者会見内容やミャンマーのヤンゴンで開催したISJ海外セミナーなどについて報告した。
 熊本地震に対して損保業界は、被害の拡大を踏まえた大規模地震損害処理体制を敷き、同協会本部に「地震保険中央対策本部」、九州支部に「地震保険現地対策本部」、熊本県に「現地機関」を設置して対応した。8月31日時点で事故受付件数は約26万3000件、支払保険金は約3573億円、調査完了率は98.3%になった。同協会は、行政機関やメディアなどあらゆる関係者の協力の他、損保業界が一つにまとまり、東日本大震災の経験を生かした地震保険金の迅速・的確・公平な支払い、被災者支援のための取り組み、適時の情報提供に努めたことが大きく寄与したとしている。
 相談対応については、地震保険契約に係る照会や相談に休日も応じた他、フリーダイヤルを設置した。そんぽADRセンターでの地震保険に関する相談・苦情受付件数は1503件(8月31日現在)、自然災害損保契約照会センターでの契約照会受付件数は362件(8月31日現在)になった。
 損害調査対応については、一定の条件の下での保険金請求手続きの簡素化や、損害調査人がモバイル端末を活用した査定を一部で実施した他、業界ベースでの支払保険金調査を行った。また、東日本大震災の経験を踏まえた対応として、契約者の自己申告に基づく損害調査を東日本大震災時の「木造建物(従来軸組工法)」「生活用動産(家財)」、損害程度「一部損」に加えて「木造建物(枠組壁工法)」、損害程度「半損」まで対象を拡大する措置などを実施した。
 特別措置として、保険金請求書類の一部取り付け省略や、継続契約の手続き、保険料払い込みを最長16年10月末まで猶予する措置を実施した。損保各社ではこの他にも被災者の利便性向上に資する特別措置を講じている。
 さらに同協会は、被災者への情報発信として、損保会社の窓口・電話番号などを記載したポスター「損害保険に関する相談窓口のお知らせ」を約8000枚、特別措置の内容を記載したリーフレットを約11万枚作成し、損保会社や避難所、被災地の自治体などで掲示・配布した。
 迅速な保険金支払いに向けた今後の主な課題には、①損害査定の簡素化②特別措置の標準化③事業継続計画(BCP)の見直し―の3点を挙げた。今後、①については、自己申告に基づく損害調査の対象拡大や、モバイル端末を用いた立会調査方式を検討する。②については、災害規模などに応じた特別措置の標準化をあらためて検討する。③については、同協会本部や会員各社の本社が機能不全になることも想定しながら、災害発生時の業界体制の在り方などについて検討し、必要に応じて拡充する。
 一方、平常時には、代理店を対象にした地震セミナーやメディアを通じた広報活動、ぼうさい探検隊など、地震リスク・地震保険に対する理解促進や防災教育に資する取り組みを推進する。
 会見ではこの他、日銀記者クラブで行われた北沢協会長の記者会見の内容や、ミャンマーのヤンゴンで開催したISJ海外セミナーについて説明した。協会長会見では、熊本地震対応の総括や、8月27日、28日の「第1回防災推進国民大会」への参画、9月5日の「地震保険制度創設50周年記念フォーラム」について報告した。「第1回防災推進国民大会」では、「揺れを知る」「被害を知る」「生き抜くために」をテーマに、有識者によるパネルディスカッションやワークショップ、展示を行った。「地震保険制度創設50周年記念フォーラム」には、損保業界関係者や一般消費者383人が参加し、財務省、金融庁による基調講演や専門家によるパネルディスカッションを行った。
 また、9月8日、9日に開催したISJ海外セミナーには、ミャンマーの保険会社や監督官庁から初日に149人、2日目の幹部対象のワークショップに70人が参加した。
 ミャンマーでは、保険契約・事故の増加に伴って査定担当者の育成が急務となっていることから、セミナーでは自動車・火災保険の損害調査や損保会社のリスクマネジメントサービスなどをテーマに取り上げた他、ミャンマー計画・財務省金融規制局の要請を受けて、金融庁監督局保険課の及川景太課長補佐が講義した。ミャンマーでは現在、保険協会設立に向けて検討が進んでいるという。