2017.10.30 金融庁 最新「金融レポート」公表、「顧客本位」の実態把握

 金融庁は10月25日、「平成28事務年度金融レポート」を公表した。金融システムの健全性確保等、活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保、フィンテックへの対応、サイバーセキュリティーの強化、国際的な課題、金融行政運営の変革など、「金融行政方針」の進捗(しんちょく)評価・分析等を取りまとめた。

 保険会社については、生保会社が行っている事業に関して顧客本位の業務運営、将来における健全性確保の観点から実態把握を実施。また、資産運用の高度化、統合的リスク管理(ERM)への取り組み等についても、それぞれモニタリングを行った。
 「国内生命保険市場の将来性」としては、今後、生産年齢人口の減少に伴い保険料収入の減少が予想されるとしている。他方で、大手生保会社等の基礎利益は高い危険差益に支えられ、安定して推移。各社とも、従来中心だった死亡保障ニーズの減少を第三分野等の保障性商品の拡販で補い、収入保険料を増加させているが、将来的に国内生保市場の縮小が予想される中、こうした収保の量的拡大といったビジネスモデルは、全体として中長期的には成立しない可能性があるとの懸念を示し、持続可能性のあるビジネスモデルの構築が課題とした。その中で、大手社のM&Aによる海外進出におけるガバナンス発揮状況について、管理する仕組みを実質的に機能させること、人材の確保・育成が引き続き課題だと指摘した。
 「顧客本位の業務運営」については、大手生保会社等の主力商品は、少子高齢化等の経営環境の変化により、死亡保障を中心とした商品から、複数の保障を組み合わせて販売する総合保障商品に移行。各社とも、特に医療保障を積極的に販売する中で、商品開発・販売の両面から実態把握をした結果、例えば、商品販売時の顧客への情報提供に関し、「子ども向けに医療保険を募集する際の子ども向け医療費助成制度に関する情報」「がん保険募集時における、年代別罹患(りかん)率の情報等、保険加入に当たり参考となる情報」を提供している事例とそうでない事例があるなど、商品販売時等における顧客への適切な情報提供には課題が認められたとしている。
 「有配当契約における契約者間での公平な配当」については、生保会社は、バブル期以前に締結した高い利回り(4~6%)を保険契約者に保証する契約(逆ざや契約)を保有し続ける一方で、新契約を締結することで平均予定利率を引き下げるとともに、そこから得られる危険差益等からの利益を内部留保として蓄積することで健全性を強化してきたと分析。その結果、基本的に現在の低金利環境が今後も継続した場合でも健全性を確保できる見込みだが、逆ざや契約からの損失は一定の規模を維持しつつ当面継続する構造になっているとする。
 個人生命保険で大きなシェアを有する契約者配当を行う商品については、バブル経済の崩壊以後の長期間、過去の逆ざや契約からの損失への対応や将来の経済的ショックに備えるための内部留保の蓄積による健全性確保のため、契約者への配当還元は制約を受けているとともに、この間、予定利率等が大きく変動したため、契約者によって契約条件が大きく異なっていると指摘した。
 「金融機関代理店における外貨建保険等の商品販売等」については、16年1月以降、金融機関代理店での保険商品の販売額が、外貨建商品の販売額の落ち込みや一部の円建商品の販売停止等により、大幅に減少。また、同年10月以降、保険商品の販売における透明性の向上を図る観点から、投資性の強い保険契約(特定保険契約)については、主要行・地域銀行等で代理店手数料率の開示が行われているものの、それ以外の保険は、ほとんどの代理店で開示されていないとしている。
 「一般乗合代理店に対するインセンティブ報酬等のあり方」については、募集手数料が乗合代理店の販売量の多寡に応じて決まるところが多く、必ずしも乗合代理店での丁寧な顧客対応やアフターフォローなどの役務やサービスの「質」を的確に反映していないことを把握したとする。インセンティブ報酬については、「初年度保険料を大きく超える水準の報酬等を乗合代理店に提示し支払っている」「費用の水準や実際の使途の確認なしに乗合代理店に支払われている」など、役務やサービスに照らした対価性に乏しく、「質」に問題があると考えられるものが認められ、金額水準(量)の高額化も進んでいるとした。金融庁として、金融機関代理店や一般の乗合代理店を通じた保険販売等に関し、引き続き、各保険会社の取り組みに関して対話を行っていく考えを示した。
 「保険会社の資産運用の高度化とERMへの取組み」では、保険会社の資産運用能力の向上は競争力強化にとって、また配当還元や保険料の低廉化を通じた顧客の利益や国民の安定的な資産形成に資する観点からも重要とする一方、適切なリスク管理態勢の下で運用が行われない場合は、保険会社の健全性に影響を与え、顧客の利益を損なう場合もあり得ると注意を促した。また、外国社債等外国証券への投資を増加させる動きについては、運用態勢の整備が課題だとしている。
 かんぽ生命については、低金利環境の下、運用収益向上の観点から、日本国債中心の運用から運用の多様化とリスク管理の高度化に取り組んだ結果、外国証券等のリスク性資産は7.9兆円(総資産比9.9%)に増加したと言及。民間保険会社との提携で、自社商品として取り扱っていない商品も提供し、顧客利便性向上に取り組んでおり、民間金融機関との連携の取り組み状況などについてもモニタリングを継続するとした。
 なお、各保険会社の自主点検等の中で、特定の損保会社で、自動車保険に係る保険金特約等支払い漏れや保険料割引適用漏れがあったことが判明。システム開発においてシステム部門とユーザー部門の連携が不十分なことが主因と指摘した。