2017.06.15 生保協会 根岸協会長、番号制度利活用で提言、先を見据えた継続取組みを

 生命保険協会の根岸秋男協会長は6月9日、日銀記者クラブで協会長として最後の定例会見を行った。積極的な社会的役割の発揮を通じて超高齢社会を支えるという決意の下、在任中は①マイナンバー制度の民間利活用への提言②保険教育の継続推進③消費者志向経営の支援等―に注力。特に①については、新たな社会インフラとして開始したマイナンバー制度を利用することで、顧客へのメリットの具体例や課題、期待を取りまとめ提言として公表するに至った。いずれの取り組みも、「継続性が大事。フォワード・ルッキングの視点で諸課題を捉えながら、中長期的な取り組みが必要」との見解を示し、次期協会長へ期待を寄せた。

 根岸協会長は、まず1年間に注力した三つの重点取り組みを振り返った。①のマイナンバー制度の民間利活用への提言は、高齢者に配慮した取り組みの一つ。生命保険業界では高齢者向けサービスのさらなる高度化を推進するに当たり、マイナンバー制度の活用が有効策になり得ると民間利活用への提言書を取りまとめ、4月に公表したもの。「会員各社による高齢者に配慮した取り組みの高度化を支援するとともに、民間利活用のさらなる拡大に期待する」と継続的な取り組みを示唆した。
 ②は、生命保険事業に対する理解の普及・促進の観点から、学校教育での保険教育機会を拡充させるため、随時、学習指導要領等に対する意見表明を行ってきた。2月には、保険教育を実施する中学校・高等学校の教諭をサポートするための社会保障、保険教育の教材と教師向けの教材活用マニュアルを作成。同時に、協会ホームページに開設したポータルサイトでこれらの情報をワンストップで提供している。協会が作成した教材は5月、公益財団法人消費者教育支援センターが実施する教育現場で役立つ優秀な教材を表彰する「消費者教育教材資料表彰2017」で優秀賞を受賞したことを明かし、「保険教育は息が長い取り組みであり、生命保険文化センターをはじめ関係機関と協力しながら継続的に推進していく」考えを示した。
 また、③の生命保険事業の基盤整備と高度化については、従来よりさまざまな取り組みを実施。金融審議会で取り上げられた顧客本位の業務運営についても、協会では金融ADR制度の適切な運営、生保意見交換会、協会に寄せられる意見の集約・分析を通じて会員各社の経営に外部の意見を生かす取り組みを行っている。また、自主ガイドラインを踏まえた会員各社の好取り組み事例を収集・共有する「Value Upアンケート」によって、各社のPDCAサイクルの高度化を促しているとし「引き続き、消費者目線に立った取り組みの後押しを通じて消費者志向経営を支援していく」と強調した。さらに、生命保険料控除制度の拡充、国際会計基準や国際的な金融監督・規制の在り方などについての積極的な意見表明、株式価値向上に向けた取り組みにおける要望といった事案に取り組んできた。この他、本年度からスタートする社会貢献活動の新3カ年計画にも言及。女性の活躍推進拡充の観点から、保育士不足による待機児童問題の解決に貢献するため保育士養成給付型奨学金制度を新設することを明かした。
 記者から、この1年間の成果と印象に残っていることを問われた協会長は、4年前、会員各社の高齢者対応取り組み事例を分析した際の報告書作成に深く関わったことを明かし、「成果として、マイナンバー制度の民間利活用についての提言の取りまとめに特に思い出がある」と振り返った。また印象として、厳しい市場環境と「顧客本位の業務運営」を挙げた。マイナス金利政策の影響下における一時払い商品の販売方針などについてどう考えるかという質問には、各社、予定利率引き下げや貯蓄性商品の販売範囲を縮小するなど対応しているが他社の業績は承知していないとしたものの「貯蓄性商品の影響は出ているが、保障性商品やそれ以外の工夫で各社努力していると思う。当初想定の範囲内で業績は推移しているのだろう」と回答した。
 日銀政策への要望、戦略構想を問われると、見通しとして量的な金融緩和が継続するだろうとの見解を示した。また、「日銀が不断により良い金融政策を模索していくこと」を希望するとしながら、現在の状況下で生保業界は「資産運用の工夫、リスク管理強化、商品営業面についての創意工夫など実行していかざるを得ない」との考えを示した。さらに一部議論されている出口戦略の考え方についても言及し、「将来の修正を恐れずオープンに議論させていただきたい。最適と考えられる意見を提示いただき、マーケットの意見も聞いてほしい」と期待を表明した。
 標準生命表の改定案は各社のプライシングにも影響が出ると思うがどう考えるかとの質問には、「保障性商品では保険料は下がるが、医療保険や特に終身医療保険では、より長生きして給付金が支払われる見込みも増えることになるため保険料は上がる方向」と回答。「会員各社は標準生命表を踏まえつつ、超低金利の影響も勘案しながら、今後それぞれの経営戦略に基づき料率改定の対応を検討していく必要がある」とし、各社、経営の考え方でばらつきが出るとの予想も明かした。
 同日開催された理事会では、次期副会長や各委員会の内定、「SR報告書2017」の発行などが報告された。