2017.06.07 民法(債権法)改正案が国会で成立 損害賠償額算定実務に大きな影響、中間利息控除の利率3%へ

 民法(債権法)の改正案が5月26日の参院本会議で可決、成立した。120年ぶりとされる今回の改正は、消滅時効の期間の統一化等の時効に関する規定の整備、法定利率を変動させる規定の新設、保証人の保護を図るための保証債務に関する規定の整備、定型約款に関する規定の新設等を内容とし、施行は公布の日から3年を越えない範囲内となる。法定利率の変動制移行については、自動車・自賠責など賠償責任保険の損害賠償額算定実務に大きな影響を及ぼすことが予想され、その他にも保険実務に関わるところで確認を要する点は多い。
 2015年の国会に提出された民法の一部を改正する法律案は、今国会で実質的に原案通り可決した。その主な内容は、
 ①消滅時効について、短期消滅時効の特例をいずれも廃止するとともに、消滅時効の期間について、原則として権利行使が可能であることを知った時から5年に統一するなど、時効に関する規定の整備
 ②法定利率について、現行の年5%から年3%に引き下げた上で、市中の金利動向に合わせて変動する制度の導入
 ③事業用融資の保証債務の規定の整備
 ④不特定多数の者を相手方とする定型的な取引に使用される定型約款に関し、定型約款を契約内容とする旨の表示があれば個別の条項に合意したものと見なすが、信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項は無効とすることを明記するとともに、定型約款を準備した取引の相手方の同意を得ることなく定型約款の内容を一方的に変更するための要件等の整備
 ⑤意思能力を有しなかった当事者がした法律行為は無効とすること、将来債権の譲渡が可能であること、賃貸借契約の終了時に賃借人は賃借物の現状回復義務を負うものの、通常の使用収益によって生じた損耗等についてはその義務の範囲から除かれることなど、確立した判例法理の明文化
―となっている。

中間利息控除の問題
 法定利率の引き下げと変動制の導入については、現行の5%と実態とのかい離がつとに指摘されており今回の改正になった。加えて損害賠償請求権が生じたときの中間利息控除に用いる利率について法定利率によるべきとすることが明文化され、不法行為による損害賠償についてもこれが準用されることになった。人身損害の逸失利益算定では、中間利息控除に複式計算のライプニッツ係数が用いられている。そのため、自賠責の支払基準や自動車保険約款の改定が必要になる。さらに、法律が施行されると、日本損害保険協会の試算によると、中間利息控除割合が現行5%のときの逸失利益額が5559万円となるモデル例で、これが3%となった場合は、同7489万円(1930万円、34.7%増)となることが示されており、損害率の悪化、料率引き上げ要素となる可能性も出てくる。なお、遅延損害金にかかる利率についても法定利率が適用され、こちらは賠償金額を減じる要素となる。
 中間利息控除に変動制の法定利率を用いることについては、損保協会、外国損害保険協会、日本共済協会が連名で法制審議会民法(債権関係)部会に、慎重な対応を求める旨の意見書を提出していた。そこでは、賠償額の増加の問題の他にも、被害を受けた時期による損害賠償額の差異、利率の改定がもたらす賠償額の逆転などの問題を指摘しており、これらの問題を含め、今後、業界としての対応が必要になる。
 また、重度後遺障害の将来介護費についても、中間利息控除で3%の法定利率が適用されることになり、やはり、賠償金額の高額化が予想される。将来介護費については、もともと通常の平均余命年数と実際の重度後遺障害者の生存余命には統計上のかい離があり、加害者側に過大な負担を強いているのではないかとする見解も根強かったところだ。それが、従来は、やはり実態とかい離している5%の中間利息控除率とトレードオフの関係にあるところから、この問題の解決の必要性が低かったとする見解もあった。そのような意味では、今後は、損害てん補の原則に立ち返り、定期金賠償の活用など、新たな司法上の判断や賠償スキームの検討が進むきっかけとなることも考えられるだろう。

消滅時効の整備
 新民法では、債権の消滅時効について、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」とした。不法行為による損害賠償請求権の消滅時効も同じ枠組みで「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき」、「不法行為の時から20年間行使しないとき」と定めている。さらに、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、前記の「3年間」を「5年間」とした。20年間の期間制限については、従来の除斥期間から消滅時効の取り扱いに変わる。20年の消滅時効になったことにより、中断や停止が認められ、信義則や権利濫用の法理が適用されることになる。
 なお、今回同時に成立した「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」によって、保険法95条(消滅時効)、保険業法36条(時効)、自賠法19条(時効)、同75条(時効)も改正された。これらに規定される消滅時効の年数は、いずれも新民法と同じ枠組みのもと従来通り維持される。例えば、保険給付、保険料返還、保険料積立金の払い戻しを請求する権利で3年間、自賠責保険の被害者直接請求権等も同様に3年間の消滅時効が維持される。

定型約款規定
 定型約款の規定が新設されたが、保険約款も定型約款ではあると考えられる。ただし、保険業、保険契約については、すでに保険業法、保険法により消費者保護、契約者保護のための規制が整備されており、今回の新民法の規制が実務に影響を及ぼす場面は少ないと思われる。ただし、国会の審議を見ていると、定型約款をめぐり質問する議員が保険契約を例に約款の問題に言及する場面も見られ、例えば、片面的強行規定により保険法の規制よりも契約者に不利な特約が無効とされていることがどこまで周知されているのか疑問なしとしない。
 今回の民法改正については、国会で、国民各層のあらゆる場面と密接に関連し、重大な影響を及ぼすものであることから、早期に浸透するよう積極的かつ細やかな広報活動を行い、その周知徹底に努めること、と附帯決議されているが、国民への周知ということでは、保険業界も定型約款の問題を含め国民への周知を検討すべきものであると思われる。