2017.01.10 フィッチが17年保険業界を展望、海外でのM&Aが継続

 フィッチ・レーティングス(フィッチ)は昨年12月に、2017年の保険業界の展望についてリポートを発表した。それによると、日本の大手保険会社による海外事業拡大が続くと同時に、収益性は医療保険分野と自動車保険に支えられて安定的に推移するとの見解を示している。
 フィッチは、多額の日本国債保有による集中リスクと国際的な分散が十分でないことを反映して、日本の保険セクターの格付けアウトルックを「安定的」から「弱含み」に変更した。日本の保険セクターの格付けは、日本の外貨建ておよび円建て長期発行体デフォルト格付け(IDR)に制約されている。
 金利リスクについては、日本の生保の経済価値ベースの資本が、16年1月の日本銀行によるマイナス金利導入の決定とそれに伴うイールドカーブのフラット化によって圧迫されているとみており、こうした状況は17年もおおむね続くと予想する。もっとも、日銀はイールドカーブのスティープ化(急な右上がり)を容認する様子を見せており、長期債の利回りは底を打った模様である。
 外国債券保有については、日本の債券市場の利回りが依然として低いことから、日本の生保は引き続き増加させるとみている。為替リスクをヘッジしている保険会社については、ヘッジコストの上昇も追加的な利差益の創出を困難にしている。保険会社は海外クレジット商品へのエクスポージャーを増加させる可能性が高い。
 フィッチは、生損保各社が、資金調達に有利な足元の低金利環境下で規制資本を強化できるように積極的に劣後債を発行すると考えており、保険セクターは、海外M&Aの機会が生じた際に対応できるようにするためにも、十分かそれ以上の水準の資本を維持する可能性が高いとみている。各社の資本基盤は、内部留保や準備金の蓄積だけでなく、ハイブリッド証券の発行にも支えられている。
 大手生損保による海外事業拡大は、人口の減少と高齢化の進展のために国内市場が飽和状態にあることを踏まえ、今後も続くとみている。大手生損保はすでに米国や英国、オーストラリアで大規模な保険会社の買収に着手している。これらの市場は、買収後、直ちに多額の保険料収入と利益をもたらす他、人口が増加しているため、日本の保険会社に緩やかな成長をもたらすとみている。また、米国での事業拡大の資金を調達するためにも、日本の投資家のみに依拠せず、資金調達源の分散を図ろうとしている生損保もあることから、最近見られる米ドル建てハイブリッド証券の発行は17年も続くと予想している。
 生保の17年の利益は安定的に推移するとみている。大幅な円高が進行しない限り、保有外国債券の拡大により、利差益は維持される可能性が高い。フィッチは、保険各社が緩やかな成長の続く比較的収益性の高い第三分野商品の販売に重点を置いていることから、疾病率・死亡率関連の商品に対する需要は底堅く、今後数年間は第三分野商品の成長傾向が続く可能性が高いとみている。日本の生保は日本の高齢化社会のニーズを満たすために、業界で最も収益性の高い医療・介護保険商品を引き続き拡大している。16年度上期の第三分野の保有契約年換算保険料は前年同期比1.5%増となり、ほとんどの生保で収益性の維持に寄与した。
 損保各社は保険引き受けリスクに応じて保険料を引き上げるかまたは維持しているため、堅調な保険引受利益を維持する可能性が高いとみている。各社の予想によれば、コンバインド・レシオは平均で92%にとどまると見込まれる(15年度は92%)。