2016.12.27 ジュネーブ協会、気候変動リスク対策で報告書を公表

 ジュネーブ協会はこのほど、「異常災害及び気候変動リスクに対する統合アプローチの重要性に関する報告書」を公表した。同報告書は、昨年12月に採択された「パリ協定」で気候変動の負の影響として起こる「損失と損害」への対処における保険の有効性について明記がなされたものの、沿海部の巨大都市への人口と経済の集中、国際的サプライチェーンの展開などによるエクスポージャーの増加、加えて気候変動に伴う巨大災害の発生頻度と規模の巨大化・広域化に歯止めが効かず、特に途上国では経済の発展に対して保険の普及が追い付いていないといった傾向がみられる状況を踏まえたもの。
 ミュンヘン再保険がまとめたNatCatSERVICEによると、1980年から2015年までの35年間で世界の巨大災害の総件数は1万5700件。このうち風水害など気候関連によるものが91%を占め、累計死亡者170万人の51%、累計経済損失額4兆ドル(440兆円)の79%を占める。付保割合を自然災害全体で見ると、経済損失額の約75%が保険でカバーされていない。スイス再保険によれば、付保対象外の経済損失総額の対GDP比率は過去30年間で0.02%から0.12%に上昇。このプロテクションギャップは特に低所得国で顕著であり、経済損失額の95%が保険でカバーされていない。
 また、世界銀行の調査によると、自然災害対応の保険の普及が進んでいる地域では巨大災害による経済的影響からの回復も早く、普及割合の低い地域では付保されていない損害がマクロ経済に負荷をかけている。また、S&Pは、250年に1度といった巨大災害が発生したケースで適切なリスク管理や付保が欠落していれば政府債権(ソブリン債)や企業の格付けにマイナスの影響があるだろうと指摘している。
 こうした現状に鑑み同協会は、保険会社が保険の普及、商品開発に継続的に注力するとともに、国際機関・政府など公的セクター、科学者コミュニティー、NGOなどとの連携を強めてそれぞれの専門性を活用しつつ統合的な対処アプローチの重要性を訴えることとし、次の四つの提案を示した。
 ①リスク緩和とリスク移転の組み合わせに関する最良事例の紹介や、保険普及率と災害後の経済の強靭(きょうじん)性の関連を示すデータの整備などにより、巨大災害に関するリスクの認知を広め、統合アプローチの有効性、利点への理解を広める。
 ②科学者コミュニティーとの連携を深め、保険業界のリスク知見をフルに活用して次世代のリスクモデルの開発に挑む。
 ③今後各国でますます必要不可欠となる産業・社会インフラの強靭性を高めるために、保険業界はインフラの設計、施工、運営の全ライフサイクルに目を配りリスク移転のみならずインフラへの投資の視点からも貢献を志向する。
 ④巨大都市の災害に対する強靭性を高めるために保険の役割をより有効に活用する。米国の大都市を襲ったスーパーストームやハリケーンによって、世界の大都市、特に沿海部の都市、自治体の防災意識が高まっている。チーフレジリエンスオフィサーという職務が世界の約70の巨大都市で設けられており、保険業界のリスクモデル作成やリスクプライシングの専門性を活用すべき余地も大きい。