2016.09.01 【特集】地震保険誕生から50年、制度の課題と今後を考える

 地震保険制度が誕生してから50年が経過した。同制度はこれまで巨大地震が発生するたびに拡充され、東日本大震災で
も有効に機能した。しかし、4月には熊本地震が発生した他、今後も首都直下地震や南海トラフ地震などの巨大地震の発生
が予想されている。こうした巨大地震に際しても安心のよりどころとして迅速・確実に保険金が支払われることが重要であ
り、そのためには地震保険制度の強靭(きょうじん)性や商品性の向上が求められている。

【新潟地震がきっかけに】
 地震保険制度が創設されたのは1966年。その2年前の64年に発生した新潟地震が創設に至る直接的な震災と言われ
ている。同地震では、死者は26人と奇跡的に少なかったが、被害は新潟・山形・秋田など日本海側を中心に9県に及んだ
。これを受け、当時大蔵大臣だった田中角栄氏が地震保険の必要性を提唱し、66年に「地震保険に関する法律」が制定さ
れた。
 危険準備金の積み立てがゼロの状態からスタートした地震保険制度は、1回の地震による損害の過大な集積を避ける必要
があったため、当時は加入できる保険金額の限度が建物90万円、家財60万円と低い水準だった。また、補償は全損のみ
だった。そのため、78年6月の宮城県沖地震では、保険契約者や各方面から強い改善要望があり、80年7月の改定で半
損が導入された。
 また、87年12月の千葉県東方沖地震は千葉県全域にわたって被害をもたらしたことから、補償内容を充実させて地震
保険の普及を促すため、91年4月の改定で一部損が導入された。これによって現在の全損・半損・一部損の3区分の損害
区分が確立された。
 地震保険制度の大きな転換点となったのは95年1月の阪神・淡路大震災だ。震災発生直前の地震保険の世帯加入率が制
度創設以来最低水準であった他、兵庫県の世帯加入率が全国平均を大きく下回っていたため、最終的な保険金支払い額は7
83億円にとどまった。これらを背景に、さらなる普及促進を図るため、96年1月の改定で加入限度額の引き上げや保険
料率の見直しが行なわれた。

【東日本大震災受け地震保険制度PT設置】
 制度創設後、最も巨額な保険金支払い額となったのは2011年3月に発生した東日本大震災。わが国観測史上最大とな
るマグニチュード9.0という巨大地震と10メートルを超える津波が発生し、東北・関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な
被害をもたらした。
 保険業界では、地震保険契約会社照会制度の創設や航空写真などによる全損一括認定の実施、継続契約の手続きや保険料
払込みの猶予措置といった新たなスキームを構築して迅速に対応した。その結果、78万件、1兆2000億円を超える保
険金を迅速に支払うことができ、被災者の生活再建に大きく寄与した。一方、巨額の保険金支払いにより、民間保険会社の
危険準備金が大幅に減少して負担力が低下するとともに、今後、発生が懸念されている首都直下地震や南海トラフ地震など
に対応するためには、地震保険制度の強靭性の向上が求められた。また、震災後、被災した契約者などからは地震保険の商
品性などに対するさまざまな意見が寄せられた。
 こうした状況の中、12年1月24日に閣議決定された「特別会計改革の基本方針」において、地震保険制度について「
今回の震災を踏まえ、総支払限度額及び官民保険責任額について早急に改定を行うとともに、地震保険の商品性についても
検討を行なうものとする」とされ、同年4月、財務省に「地震保険制度に関するプロジェクトチーム(地震保険制度PT)
」が設置された。有識者らが集まり、地震保険制度の根本に関わる全体像や制度の強靭性・商品性について議論した。また
、13年11月から、地震保険制度PTの報告書で整理された課題への取り組み状況などについてフォローアップするため
、地震保険制度PTフォローアップ会合が開催された。

【新たな地震保険制度がスタート】
 17年1月から適用される新たな地震保険制度は、これまでの損害区分である全損・半損・一部損の3区分のうち、半損
が大半損(60%)と小半損(30%)に分割され、損害区分が4区分となる。これにより、損害査定の迅速性を確保しつ
つ、より損害の実態に照らした損害区分になることが期待される。
 地震保険基準料率も17年1月から変更となり、全国平均で5.1%引き上げられる。改定率は都道府県、構造区分別に
異なるが、最大引き上げ率は14.7%、最大引き下げ率は15.3%。損害保険料率算出機構が算出した結果では、料率
は全国平均で19.0%の引き上げが必要なことが判明したことから、都道府県ごとに3段階に分けて料率改定を行う方針
だ。
 都道府県別料率は、震源への近接性といったリスクに応じて四つの等地(同一保険料率のグループ)に区分して料率格差
を設けていたが、料率格差の平準化を図る観点から14年7月に4区分から3区分に統合された。今回、新たに危険度計算
を行ない、等地を再区分した。具体的には、現行で2等地だった北海道、青森、新潟、岐阜、京都、兵庫、奈良が1等地に
、現行で3等地だった愛知、三重、大阪、和歌山、愛媛が2等地に移行する。
 新たな地震保険制度が適用されると保険料が上がる地域があるが、それはその地域の地震リスクが高いことを示している
。地震保険の付帯率は上昇傾向にあり、消費者の地震リスクに関する認識・関心は少しずつ高まっているが、地域による付
帯率のバラつきや、消費者の地震保険に関する理解が不十分といった課題もある。
 保険業界においては、消費者の地震リスクに関する認識の向上と、地震保険のさらなる普及に向けた継続的な取り組みが
重要となる。